ブナ科樹木萎凋病

ナラ枯れ（ブナ科樹木萎凋病）について

ナラ枯れ（ブナ科樹木萎凋病）は、ブナ科の樹木、特にコナラ属の木が急速に枯れてしまう病気です。この病気は、盛夏から晩夏にかけて葉が萎れることから始まり、1週間から2週間程度で葉が褐色に変わり、木全体が枯れてしまいます。枯れた木の根元には細かい木屑が散乱し、幹には小さな穴が多数見られます。また、枯れた木を切断すると、木材の辺材部分が茶色に変色しているのが特徴です。

ナラ枯れの原因

ナラ枯れの主な原因は、ナラ菌（Raffaelea quercivora）というカビの一種です。この菌は、カシノナガキクイムシという甲虫によって媒介されます。カシノナガキクイムシは、枯れた木から羽化し、新しい木に集団で侵入する際に、ナラ菌を運び込みます。木に侵入したナラ菌は、木の道管という水を運ぶ管を詰まらせ、水分の吸収を妨げます。その結果、木は枯れてしまうのです。

ナラ菌は、世界中で10種類以上が確認されており、そのほとんどがキクイムシやナガキクイムシから検出されています。近年では、アメリカ、韓国、ヨーロッパなどでも、Raffaelea属菌による樹木の枯死が報告されています。これらの病気も、ナラ枯れと同様に、キクイムシやナガキクイムシが病原菌を媒介しています。

ナガキクイムシの役割

カシノナガキクイムシは、ゾウムシに近い甲虫で、木を食べる習性があります。この虫は、6月から7月にかけて枯れた木の中で羽化し、新しい木に侵入します。カシノナガキクイムシには、ナラ菌を蓄える場所があり、集団で木に侵入する際に、大量のナラ菌を運び込みます。このような集団での攻撃（mass attack）が、ナラ菌の病原性を高める要因の一つと考えられています。

ナラ枯れの発生要因

ナラ枯れの発生には、ナラ菌に対する樹木の感受性や、森林環境の変化が影響しています。ミズナラはナラ菌に対して弱く、ブナは比較的強いとされています。また、森林環境の変化もナラ枯れの発生に大きく関わっています。かつては、薪炭林として利用されていたナラ林は、定期的に伐採されていたため、若い木が多く、カシノナガキクイムシの繁殖には適していませんでした。しかし、近年では、ナラ林の伐採が減ったため、大径木が増加し、カシノナガキクイムシの繁殖に適した環境となっています。さらに、地球温暖化の影響も指摘されており、冬期の高温や春期の降水量の増加が、ナラ枯れを助長している可能性があります。

ナラ枯れへの対策

ナラ枯れの対策は、主に以下の3つがあります。

1. ナガキクイムシの駆除:
- 枯れた木を伐採し、袋で覆って薬剤で燻蒸する。
- キクイムシが脱出する前に健全な木を伐採して丸太を並べ、キクイムシを誘引して駆除する（餌木誘殺）。
- フェロモン剤を利用してキクイムシを捕獲する。
- キクイムシが侵入した木に殺虫剤を散布する。
2. ナガキクイムシによる攻撃の防止:
- 木の幹をビニールシートや粘着紙で覆う。
- 木の幹に粘着剤を塗布する。
3. ナラ菌の駆除:
- 殺菌剤を木に注入する。

これらの対策は、ニレ立枯病やマツ材線虫病の防除方法を参考にしています。しかし、ナラ枯れは、一度発生すると完全に防ぐのが難しく、長期的な対策が必要です。

ナラ枯れと生態系への影響

ナラ枯れは、森林生態系に大きな影響を与えます。ナラ枯れによって、森林の樹木構成が変化し、生物多様性が失われる可能性があります。また、枯れた木は、火災のリスクを高める可能性もあります。ナラ枯れは、1980年代から被害が顕著になり始めましたが、その影響は深刻であり、今後の対策が重要となっています。

ナラ枯れとその他の樹木病害

ナラ枯れ以外にも、樹木に被害を与える病害は多数存在します。以下に、主な樹木病害とその特徴を示します。

マツ材線虫病（松枯れ）: カミキリムシが線虫を媒介し、マツを枯らす病気。道管の閉塞により通水障害が起こる点がナラ枯れと共通しているが、閉塞のメカニズムは異なるとされる。
ニレ立枯病（オランダニレ病）: キクイムシが菌を媒介し、ニレを枯らす病気。道管の閉塞による急激な萎凋が特徴で、ナラ枯れと類似している。
クリ胴枯病: クリに発生する病気で、アメリカで大きな被害を出している。
Oak Wilt病: アメリカで蔓延しているナラ類の病気で、原因菌はナラ枯れとは異なる。
Sudden Oak Death病: アメリカ西海岸で流行しているブナ科樹木の病気で、原因菌はナラ枯れとは異なる。
Laurel wilt病: Raffaelea属菌がクスノキ科樹木に引き起こす病気で、媒介昆虫はキクイムシ。
Korean oak wilt病: Raffaelea属菌が韓国のブナ科樹木に引き起こす病気で、媒介昆虫はナガキクイムシ。
cork oak mortality: 地中海地域のコルクガシの病気で、病原菌はRaffaelea属菌、媒介昆虫はナガキクイムシ。

これらの病害も、ナラ枯れと同様に、森林生態系に大きな影響を与えており、今後の対策が重要となっています。

もう一度検索