ブノアの聖母

レオナルド・ダ・ヴィンチ初期の傑作『ブノアの聖母』

『ブノアの聖母』（伊: Madonna Benois）は、ルネサンス期の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが1478年頃に描いたとされる油彩画です。この作品は、レオナルドが師であるアンドレア・デル・ヴェロッキオのもとを離れ、独立した画家として活動を始めた初期の作品の一つと考えられています。

作品の特徴と視覚理論

『ブノアの聖母』は、『花と聖母子』とも呼ばれ、マリアが幼いキリストを抱き、キリストが手にした花を見つめる姿が描かれています。この作品には、レオナルドが当時研究していた視覚理論が反映されていると考えられています。当時の考え方では、人間の目は最も重要なものを視野の中心に捉える光を発するとされていました。この考えに基づき、マリアはキリストの視線を花へと導くように描かれています。

また、この作品には二点の習作が存在し、現在大英博物館に所蔵されています。これらの習作からも、レオナルドが視覚理論を追求していたことが伺えます。

『ブノアの聖母』の歴史

『ブノアの聖母』は、数世紀にわたり行方不明となっていましたが、1909年に建築家レオン・ブノアが義父の美術コレクションの一部として、サンクトペテルブルクで展示したことで、再び世間の注目を集めました。

この作品は、1870年代に美術鑑定家のアレクセイ・コルサコフがイタリアから購入し、ロシアに持ち込んだと考えられています。その後、コルサコフの息子からアストラハンの貿易商サポジニコフに売却され、最終的にブノア家が相続しました。レオン・ブノアは、作者を巡る論争の末、1914年にこの作品をエルミタージュ美術館に売却しました。

この売買を仲介したのは、画家であり美術品収集家でもあったエルンスト・フリードリヒ・フォン・リプハルトでした。彼は『ブノアの聖母』をレオナルドの真作と鑑定した人物でもあります。ちなみに、エルンストの父カールも著名なレオナルド研究家でした。

作品の影響

『ブノアの聖母』は、その構図がルネサンス期の画家たちに大きな影響を与えました。ラファエロの作品『カーネーションの聖母』も、『ブノアの聖母』の影響を受けて描かれたと言われています。

現在の所蔵

現在、『ブノアの聖母』はロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館に所蔵されており、多くの人々に愛されています。

『ブノアの聖母』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの初期の画業を代表する作品であるとともに、彼の視覚理論への関心や、後の画家たちへの影響を語る上で非常に重要な作品です。

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