ブラショヴ

ブラショヴ：歴史と文化が息づくトランシルヴァニアの古都

ブラショヴは、ルーマニアの中央部に位置するブラショヴ県の県都であり、カルパティア山脈に囲まれたトランシルヴァニア地方の中心都市の一つです。首都ブカレストから約140km離れた場所にあります。

この街は、ルーマニア語でBrașov、ハンガリー語でBrassó、ドイツ語ではKronstadtと呼ばれ、中世には複数の名前で知られていました。特にドイツ語名のクローンシュタットは、「王冠の都市」を意味し、市の紋章にもその象徴が見られます。歴史的に、この地域はドイツ人入植者であるトランシルヴァニア・ザクセン人と深く関わっており、彼らの文化的な影響が街の景観や歴史に色濃く残っています。

歴史

ブラショヴの地は、ハンガリー人の征服以前からブルガリア人が居住しており、都市として発展していました。11世紀には、ハンガリー王国の初代国王イシュトヴァーン1世がツェンク山に城塞を築き、その後、ドイツ騎士団にこの地が与えられました。

12世紀には、ハンガリー王ゲーザ2世によってトランシルヴァニア・ザクセン人が招かれ、鉱業と農業に従事することで街の発展に貢献しました。彼らは主にラインラント、フランドル、モゼル地域から移住してきましたが、その他テューリンゲン、バイエルン、ワロニア、そしてフランスからの移民もいました。1252年には、ブラショヴが「バラスのサクソン人の国」として初めて文書に記録されています。

中世のブラショヴでは、ザクセン人が商工業の中心を担っていました。オスマン帝国と西欧を結ぶ交易路に位置していたため、特権を与えられたザクセン人商人が富を蓄積し、政治力を持つようになりました。彼らの影響で、街には美しい建築物が建てられ、周辺には職人ギルドによって維持された要塞も築かれました。現在でも、その一部はユネスコによって修復されています。

しかし、ドイツ系住民が中心だったクローンシュタットでは、ルーマニア人は市民として認められず、商業活動も制限されていました。ルーマニア正教も公認されていなかったため、多くのルーマニア人は羊飼いや密輸で生計を立てていました。彼らは、街の外側のシュケイ地区に住み、17世紀から19世紀にかけて、民族的、政治的、文化的な権利を求めて運動を展開しました。

1918年にトランシルバニアがルーマニアに併合された後も、ザクセン人の地位は脅かされることはなく、ブラショヴは経済的、文化的な繁栄を享受しました。しかし、第二次世界大戦後、多くのドイツ系市民はソ連によって追放され、共産主義体制のルーマニアから旧西ドイツへと移住しました。また、かつて4000人いたユダヤ人も、戦後にイスラエルへ移住したため、現在では230人ほどにまで減少しています。

1950年代から1960年代にかけて、街は一時的にソビエト連邦の指導者ヨシフ・スターリンにちなんでスターリン市と呼ばれていましたが、後に元のブラショヴに戻されました。共産主義時代には工業化が急速に進められましたが、1987年にはブラショヴの労働者が共産政権に対して暴動を起こしました。これは当局によって鎮圧され、多数の労働者が収監されました。また、1989年のルーマニア革命では、ブラショヴでも多数の死傷者が出ています。

人口

ブラショヴの人口は、歴史的に多様な民族構成を示しています。1850年には、ドイツ人、ルーマニア人、ハンガリー人がほぼ同程度の割合で居住しており、ロマ人やユダヤ人、その他少数民族もいました。2002年の国勢調査では、ルーマニア人が90％以上を占める一方で、ハンガリー人、ドイツ人（ザクセン人）、ロマ人などの少数民族も存在しています。

経済

戦間期には、ルーマニア初の戦闘機を製造したIARブラショヴが設立されました。共産主義時代には、この工場は農業機械製造工場となり、ブラショヴトラクター工場として知られるようになりました。現在も重工業が発達しており、ドイツのMAN社のトラックを製造するロマン社も存在します。ブラショヴは、農業用トラクターや機械、自動車部品、医薬品などを製造しており、製薬産業も発展しています。また、不動産価格も上昇しており、欧州連合への加盟や空港の建設など、投資家の関心を集めています。

交通

ブラショヴは、バスやトロリーバスの路線が発達しており、近郊のポヤナ・ブラショヴへもアクセスが可能です。かつては路面電車も運行していましたが、現在は廃止されています。鉄道駅は、市の中心部にあるブラショヴ駅のほか、市西部や南東部にもあります。主要道路として、欧州自動車道路E60号線や国道DN1号線が接続しており、2010年にはブラショヴ空港も完成予定です。

観光

ブラショヴは、ルーマニア観光の拠点として重要な都市です。旧市街には歴史的な建造物が数多く残っており、トゥンパ山からは街並みを一望できます。

主な観光地としては、以下のものがあります。

黒教会: トランシルヴァニア最大級のゴシック様式の教会で、オスマン帝国との戦いで焼失した際に黒くなったことからこの名がつけられました。
カーサ・スファトゥルイ: 昔の市庁舎で、現在は歴史博物館として使われています。
ブラショヴ要塞: 13世紀から15世紀にかけて築かれた要塞です。
シュケイ地区: かつてブルガリア人やルーマニア人が住んでいた場所で、古い城壁や門が残っています。
聖ニコラエ教会: シュケイ地区にあるルーマニア正教会で、14世紀にまで遡る歴史があります。
ルーマニアの最初の学校の博物館: ルーマニア語で書かれた最初の本や印刷機が展示されています。
* トゥンパ山: 市の中心部に位置する標高960mの山で、ロープウェイやケーブルカーで登ることができます。

また、近郊のブラン城へのバスも出ており、多くの観光客が訪れます。

スポーツと文化

ブラショヴには、サッカークラブのFCブラショヴをはじめ、ハンドボール、バスケットボール、ラグビーなどのクラブチームがあります。また、写真家のブラッシャイや作曲家のヴァーレンティーン・バクファルクなど、多くの有名人がこの街の出身です。

姉妹都市・友好都市

ブラショヴは、フランスのトゥール、ハンガリーのジェール、日本の武蔵野市など、世界各地の都市と姉妹都市・友好都市提携を結び、国際交流を深めています。

ブラショヴは、多様な歴史と文化が融合した魅力的な都市です。中世の面影を残す街並みや、カルパティア山脈の雄大な自然は、訪れる人々を魅了し続けています。

もう一度検索