ブラジル文学

ブラジル文学：植民地時代から現代まで

ブラジル文学は、ポルトガル植民地時代から現代に至るまで、豊かな歴史と多様な表現様式を誇ります。本稿では、ブラジル文学の歴史を時代区分ごとにたどりながら、主要な文学運動、代表的な作家、そして彼らの作品について詳細に解説します。

植民地時代 (1500-1808)

ブラジル文学の始まりは、1500年、ペドロ・アルヴァレス・カブラル率いるポルトガル艦隊によるブラジルの「発見」に遡ります。ペロ・ヴァス・デ・カミーニャの『書簡』(1500)が、その記録として文学史の幕を開けました。初期の文学は、ヨーロッパ人による紀行文といった情報文学と、イエズス会による布教活動に関連した宗教文学に大別されます。ジョゼ・デ・アンシエッタは、インディオへのカトリック布教を目的とした劇作品で知られています。

17世紀にはバロック文学が隆盛を極めます。ベント・マヌエル・デ・テイシェイラの『擬人法』(1601)を端緒として、グレゴリオ・デ・マトス・ゲーラの辛辣な風刺詩や、アントニオ・ヴィエイラの『説教集』が、当時の社会の矛盾を浮き彫りにしました。

18世紀には新古典主義が導入され、クラウディオ・マヌエル・ダ・コスタ、トマス・アントニオ・ゴンザーガ、バジリオ・ダ・ガマ、サンタ・リタ・ドゥランといった作家が活躍しました。ゴンザーガの『マリリア・デ・ディルセウ』(1792)は、大衆的な人気を博しました。

国民文学期 (1808-現代)

1808年のポルトガル王室のブラジル移転、そして1822年のブラジル独立を背景に、ブラジルは文化的な独立も目指すようになりました。ヨーロッパで台頭していたロマン主義がブラジルにも伝来し、1836年、ゴンサウヴェス・デ・マガリャンイスの『詩的ため息と郷愁』(1836)がその始まりとなりました。

ブラジルのロマン主義は、フランスロマン主義の影響を強く受けました。ヨーロッパにおける中世騎士の理想像に代わって、インディオを理想化する「インディアニズモ」という独自の潮流が生まれました。ゴンサルヴェス・デ・マガリャンイス、ゴンサウヴェス・ジアスといった詩人たちは、インディアニズモや祖国への愛を表現しました。アルヴァレス・デ・アゼヴェード、カズミーロ・デ・アブレウ、ファグンデス・ヴァレーラといった第二世代の詩人は、より内面的な表現に傾斜していきました。

小説においては、ジョアキン・マヌエル・デ・マセードの『小麦色の娘』(1844)が最初の大衆小説とされ、ジョゼ・デ・アレンカールは「ブラジル語」の創造を目指して地方主義やインディアニズモを題材とした数々の名作を遺しました。彼の『イラセマ』や『グアラニー』は代表作として有名です。ベルナルド・ギマランイス、フランクリン・ターヴォラ、トゥネイ子爵なども、ロマン主義小説に重要な貢献を果たしました。マヌエル・アントニオ・デ・アルメイダは、写実主義の先駆けとなる作品を発表しました。

1881年、マシャード・デ・アシスの『ブラス・クーバス死後の回想』(1881)の発表は、ブラジルにおける写実主義の到来を告げました。アシスは貧しいムラート出身ながら、ジャーナリスト、公務員を経て、ブラジル文学史に残る傑作を数多く発表しました。ラウル・ポンペイアは印象主義的な小説で知られています。アルイジオ・アゼヴェードは自然主義を導入し、社会告発的な作品を執筆しました。

19世紀末から20世紀初頭にかけては、高踏主義が文壇を席巻し、オラーヴォ・ビラック、アルベルト・デ・オリヴェイラ、ライムンド・コレイアなどが影響力を持つようになりました。一方、象徴主義は、クルス・イ・ソウザ、アルフォンスス・デ・ギマランイス、エドゥアルド・ギマランイスらが中心となって発展しました。

近代主義とその後 (1922-現代)

1922年の「近代芸術週間」は、ブラジルにおける近代主義の始まりを告げました。マリオ・デ・アンドラーデ、オスヴァルド・デ・アンドラーデ、メノッチ・ピッキア、グラサ・アラーニャといった作家たちが、既存の芸術様式への批判を展開しました。オスヴァルド・デ・アンドラーデは、パウ・ブラジル運動、食人運動などを提唱し、原始主義を取り入れました。マリオ・デ・アンドラーデの『マクナイーマ』(1928)も、原始主義的な要素を含む作品です。

1930年代には、政治イデオロギーや地方主義が文学に影響を与えました。ジョゼ・アメリコ・デ・アルメイダ、ジョゼ・リンス・ド・レーゴ、ラケル・デ・ケイロス、グラシリアーノ・ラーモス、シーロ・ドス・アンジョス、ディオネーリオ・マシャード、エリコ・ヴェリッシモ、ジョルジェ・アマードなどが活躍しました。

1940年代以降は、新近代主義やポストモダンといった新たな潮流が生まれました。ジョアン・カブラル・デ・メロ・ネト、アルフォンスス・デ・ギマランイス、アウグスト・デ・カンポス、アロルド・デ・カンポス、デシィオ・ピニャタリ、フェレイラ・グラールといった詩人たち、そしてジョアン・ギマランイス・ローザ、ジョゼ・J・ヴェイガ、ベニート・バレット、アリアーノ・スアスーナ、ジョゼ・カンディード・デ・カルヴァーリョ、ジョアン・ウバルド・リベイロ、ルベン・フォンセカ、リジア・ファグンデス・テレス、ダルトン・トレヴィザン、クラリセ・リスペクトール、アントニオ・カラード、フェルナンド・サビーノ、エルベルト・サーレス、カルロス・エイトール・コニーといった小説家らが活躍し、ブラジル文学は現代においても多様な表現を展開しています。

その他の文学

ブラジル北東部や北部には、「コルデル文学」と呼ばれる民衆文学が存在します。また、日系ブラジル人の文学活動も、ブラジル文学における重要な一環として注目されています。

まとめ

ブラジル文学は、植民地時代の情報文学や宗教文学から始まり、ロマン主義、写実主義、自然主義、象徴主義、近代主義、ポストモダンなど、様々な文学運動を経て現代に至っています。多様な文化と歴史、そして社会の矛盾や葛藤を反映した作品群は、ブラジル文学の豊かな多様性を示しています。

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