ブラックアダー

『ブラックアダー』（Blackadder）は、1983年から1989年にかけて英国放送協会（BBC）で制作・放送された画期的なシチュエーション・コメディシリーズです。本シリーズは、イギリスの歴史における特定の時代を毎回舞台とし、ブラックユーモアと鋭い風刺を交えながら、主人公の冒険譚を描き出しました。

全4つの主要シリーズと複数の特別編、そして映画版が製作されたこの作品の最大の特色は、主演のローワン・アトキンソンが演じるエドマンド・ブラックアダーが、シリーズごとに時代もキャラクター設定も大きく変化するという点です。しかし、その本質は常に「皮肉屋で毒舌、そして目的のためなら手段を選ばない」という共通した性格を持っています。また、トニー・ロビンソン演じる愚直で間抜けな下男、ソドフ・ボールドリックが、時代や設定が変わってもブラックアダーの傍らに仕え続けるレギュラーキャラクターとして登場し、物語に欠かせない役割を果たしています。初期シリーズの脚本には、後に『ラブ・アクチュアリー』などを手掛けるリチャード・カーティスや、主演のローワン・アトキンソン自身が携わりました。

各シリーズ詳細

第1シリーズ『The Black Adder』: 1485年、中世イングランドが舞台です。ボズワースの戦いの前夜から物語は始まり、ブラックアダーは王族の一員として登場します。日本でビデオ化された際の副題には「大英帝国一のアホ」と銘打たれるなど、まだどこか滑稽さも残るキャラクター造形でした。
第2シリーズ『Blackadder II』: 舞台はエリザベス1世の治世下のイングランドに移ります。主人公のブラックアダーは、第1シリーズのブラックアダーの子孫という設定で、より洗練された（そしてより皮肉で冷徹な）貴族として描かれます。
第3シリーズ『Blackadder the Third』: 18世紀後半から19世紀初頭にかけての摂政時代が舞台です。ブラックアダーは、放蕩者の摂政王太子（後のジョージ4世）の執事として登場し、彼の無能さに振り回されながらも、自身の利益のために暗躍します。
第4シリーズ『Blackadder Goes Forth』: 時代は一気に飛び、1917年、第一次世界大戦下の西部戦線が舞台となります。ブラックアダーは英国陸軍の大尉となり、過酷な塹壕生活の中で、前線からの脱出を常に画策します。このシリーズは、戦争の悲惨さと不条理さをコメディとして描き切るという、よりシリアスなテーマも内包しています。

特別編と映画

これらの主要シリーズの他にも、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』をブラックアダー流にパロディ化した『Blackadder's Christmas Carol』（日本語題『ブラックアダーのクリスマス』）や、清教徒革命期を描いた『Blackadder The Cavalier Years』（チャールズ1世処刑前夜のエピソード）などの単発特別編が制作されました。さらに、ミレニアム記念として歴史を巡るタイムトラベルコメディ映画『Blackadder Back and Forth』も公開されています。初期の構想段階であったパイロット版も後に公開されています。

多彩なキャスト

ローワン・アトキンソン、トニー・ロビンソンというレギュラー陣に加え、スティーヴン・フライ、ティム・マッキナリー、ヒュー・ローリー、ミランダ・リチャードソン、ミリアム・マーゴリーズといった実力派俳優たちが多数出演しています。多くのキャストが、シリーズごとに異なる時代や設定の中で全く違うキャラクターを演じ分けており、その変幻自在な演技も本シリーズの見どころの一つです。例えば、スティーヴン・フライはメルチェット卿（式部卿、将軍、大司教）、ウェリントン公爵、チャールズ1世などを、ヒュー・ローリーはルートヴィヒ王子、摂政王太子、ジョージ中尉などを演じました。リック・メイオールやガブリエレ・グライスター、ケイト・モス、ロビー・コルトレーンといったゲスト出演者も、物語に彩りを添えています。

『ブラックアダー』シリーズは、その独創的な設定、ブラックユーモア溢れる脚本、そして俳優陣の卓越した演技によって、英国コメディ史における金字塔の一つとされています。各時代の社会や権力に対する鋭い風刺は、時代を超えて多くの視聴者に愛され続けています。

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