ブラッディ・マーシュの戦い

ブラッディ・マーシュの戦い：ジョージア植民地を巡る英西の激戦

ブラッディ・マーシュの戦いは、1742年7月18日（グレゴリオ暦）、ジェンキンスの耳の戦争中に、現在のジョージア州セント・サイモンズ島でイギリス軍とスペイン軍の間で行われた戦闘です。この戦いは、フレデリカ砦とセント・サイモンズ砦という二つの砦を巡る争いでしたが、その背後には、周辺の海域や水路の支配権を確立するという戦略的な目的がありました。イギリス軍が勝利したことで、ジョージア植民地におけるイギリスの支配は確固たるものとなりました。

背景：植民地化と国境紛争

イギリスのジェームス・オグルソープは、ジョージアの植民地化を推進し、サバンナをその主要な港として発展させました。しかし、1730年代に入ると、ジョージア植民地とスペイン領フロリダの境界線を巡って、イギリスとスペインの間で紛争が頻発するようになります。

スペインによる侵攻の可能性が高まるにつれて、オグルソープはジョージア南部の防衛を強化するため、セント・サイモンズ島に新たな町と砦の建設を決定しました。彼はレンジャーとインディアンの案内人を伴い、その場所を定めました。1734年、オグルソープはイギリス議会と植民地の信託委員会に対し、砦に駐留軍を配置するための予算を承認させました。

信託委員会は、多くの植民地人をセント・サイモンズ島へ移住させる計画を立てました。1736年初頭には、移住者や食料を積んだ船がタイビー島に到着し、一部は本土へ、残りはピラフアでセント・サイモンズ島へ向かい、フレデリカの集落を建設しました。この集落と要塞は、フレデリカ川の屈曲部に建設され、どちらの方向から敵が来ても対応できるように設計されました。

1737年、オグルソープは資金調達と兵士募集のためにイングランドへ帰国し、議会からの許可を得ることに成功しました。彼はサウスカロライナとジョージア植民地のイギリス軍総司令官に任命され、スコットランドのインヴァネスで兵士を募集し、家族とともにアメリカ本土のアルタマハ川河口にあるデアリアン（当時は「ニュー・インヴァネス」と呼ばれていました）に移住させました。これらの兵士は、ハイランド独立中隊として知られましたが、イギリスの公式記録ではオグルソープの歩兵連隊として記録されました。

セント・サイモンズ島には、5マイル離れた場所に二つの砦が建設され、荷車一台が通れる幅の道（ミリタリー・ロード）で結ばれました。この道は、セント・サイモンズ砦からフレデリカ砦の駐留軍や近くの集落へ食料を供給するために利用されました。

侵攻と戦闘：スペイン軍の上陸

ブラッディ・マーシュの戦いは、ジェンキンスの耳の戦争におけるスペインの侵攻作戦の一環として発生しました。スペインのマヌエル・デ・モンティアーノ総督率いる侵攻軍は、4,500人から5,000人で構成され、そのうち約1,900人から2,000人が上陸部隊でした。一方、オグルソープ率いるイギリス軍は、正規軍、民兵、インディアンの混成部隊で、1,000人未満でした。1742年7月16日、モンティアーノはフレデリカ川近くのガスコイン岬に36隻の船から1,900人を上陸させました。数で圧倒的に不利なオグルソープは、スペイン軍が攻撃を仕掛ける前にセント・サイモンズ砦から撤退することを決意し、砦の大砲を破壊し、使用できないようにしました。翌日、スペイン軍は砦を占領し、侵攻の拠点としました。

ガリー・ホール・クリークの戦い：偵察隊の衝突

セント・サイモンズ砦を占拠し、兵士と物資を上陸させたスペイン軍は、周辺地域の偵察を開始しました。スペインの偵察隊は、セント・サイモンズ砦とフレデリカ砦を結ぶ道を発見しましたが、それを軍道ではなく農業用道路と誤認しました。7月18日、セバスティアン・サンチェス大佐率いる約115人の偵察隊が道に沿って進み、フレデリカ砦から1.5マイルの地点でノーブル・ジョーンズ率いるオグルソープの部隊と遭遇しました。この遭遇戦は、後にガリー・ホール・クリークの戦いとして知られるようになり、スペイン偵察隊は3分の1が戦死または捕虜となり敗走しました。オグルソープの部隊はミリタリー・ロードを進んで追撃し、セント・サイモンズ砦へ向かいました。しかし、スペイン軍の捕虜から、スペインの大軍がフレデリカ砦に向けて進軍しているという情報を得たオグルソープは、増援を集めるために部隊を分割しました。

ブラッディ・マーシュの戦い：奇襲と混乱

イギリス軍はスペイン軍の増援部隊の進軍に直面し、後退を余儀なくされました。しかし、ミリタリー・ロードのカーブ地点で、サザーランド大尉とマッコイ大尉は部隊に停止を命じました。イギリス軍は、半円形の開墾地の周囲に散らばり、木やキャベツヤシの陰に身を隠して待ち伏せました。予想通り、スペイン軍が開墾地に到着し、片側が沼地、反対側が森という地形から安全だと判断し、武装を解除して夕食の準備を始めました。その瞬間、イギリス軍が森から一斉射撃を浴びせ、スペイン軍を奇襲しました。数回の斉射により、スペイン軍は約200人の死者を出しました。この戦闘は非常に激しく、沼地がスペイン兵の血で染まったことから、「ブラッディ・マーシュ（血なまぐさい沼地）」と呼ばれるようになりました。森の中には、戦死または瀕死のスペイン兵が多数横たわっており、一部のスペイン士官は兵士を再編成しようとしましたが、兵士たちは混乱して四方八方に逃げ惑い、イギリス軍の銃撃がそれを追い打ちました。バルバ自身も致命傷を負い捕虜となりました。ブラッディ・マーシュの戦いは、スペイン軍の進軍を食い止め、最終的に決定的な勝利をもたらしました。勝利の功労者はオグルソープとされましたが、彼が戦場に到着したのは戦闘が終わった後でした。

戦略と欺瞞：スペイン軍の撤退

オグルソープは、スペイン軍を島から完全に追い出すために、さらなる戦略を講じました。数日後、彼は南側のスペイン軍の陣地に接近した際、イギリス軍から脱走したフランス人がスペイン側に寝返ったことを知りました。オグルソープは、この脱走者がイギリス軍の兵力が少ないことを暴露することを恐れ、軍楽隊の鼓手を呼び出し、大軍がいるかのように見せかけました。さらに、彼は脱走者にイギリスから援軍が派遣されるまでの間、偽の情報を流し続けるように指示する手紙を書き、スペイン軍に彼が送り込んだスパイであると誤解させようとしました。そして、スペイン軍の捕虜に手紙を持たせて釈放しました。捕虜はオグルソープの計画通り、手紙をスペイン軍の士官に届け、フランス人脱走者は処刑されました。さらに、イギリス船がちょうど到着したことで、スペイン軍はイギリスからの援軍が到着したという誤解を深めました。最終的に、スペイン軍は7月25日にセント・サイモンズ島から撤退し、ジョージア植民地への最後の侵攻は終わりを迎えました。

その後：ジョージアの安定

スペイン軍を撃退した後、オグルソープは反撃としてスペイン領フロリダへの侵攻を計画しましたが、戦場がアメリカからヨーロッパに移ったため、武器、補給、兵士などが不足しました。ジョージアとフロリダ一帯は事実上の停戦状態となり、小規模な衝突が時折発生する程度でした。オグルソープは後に准将に昇進し、1744年にジョージアを離れて帰国し、二度とイギリスを離れることはありませんでした。1748年のアーヘンの和約により戦争が終結し、ジョージアはイギリス植民地として承認され、スペインもマドリード条約でそれを認めました。さらに、七年戦争を終結させた1763年のパリ条約により、スペインがフロリダをイギリスに割譲すると、ジョージアの地位は確固たるものとなりました。

現在、サバンナのワームズロー史跡地では、毎年ジェンキンスの耳の戦争の記念行事が開催されています。

もう一度検索