ブラバム・BT39

ブラバムBT39：夭折したV12エンジンのテストベッド

ブラバムBT39は、1972年に伝説的フォーミュラ1チーム、ブラバムによって開発された、数奇な運命を辿った1台のマシンです。ラルフ・ベラミーが設計を手掛けたこのマシンは、フォーミュラ2カーであるブラバムBT38をベースに、新たなパワーユニットのテストを目的として急造されました。搭載されたのは、ウェスレイク・リサーチ社が開発した、当時としては革新的であったV型12気筒エンジン、WRP-190です。

このWRP-190エンジンは、ブラバムチームにとって大きな期待をかけたプロジェクトでした。V12エンジンは、高い出力とスムーズな回転特性を持つと期待され、フォーミュラ1で勝利を収めるための切り札になると考えられていました。しかし、期待されたほどの性能を発揮することはなく、BT39でのテスト走行は芳しい結果をもたらしませんでした。

BT39は、BT38をベースに急いで改造されたため、シャシーの設計は既存のものを流用しており、新規設計ではありませんでした。そのため、V12エンジンの高出力と振動に対応しきれず、ハンドリングや信頼性の問題を抱えていたと推測されています。テスト走行では、エンジンの性能不足やシャシーの剛性不足、ハンドリングの悪さなどが露呈し、実戦投入には至りませんでした。

結局、BT39は実戦の舞台を踏むことなく、その短い生涯を終えます。テスト走行で得られたデータは、今後のエンジン開発に役立てられた可能性はありますが、BT39自身はフォーミュラ1の世界で活躍することはありませんでした。その後、BT39は元のBT38の状態に戻され、売却されたという記録が残されています。

わずか1台のみが製作されたBT39は、F1の歴史においては影の薄い存在かもしれません。しかし、このマシンは、当時のF1における技術開発競争の激しさと、革新的な技術が必ずしも成功を約束しないことを象徴的に示しています。また、チームが新たな技術に挑戦する姿勢と、その結果として生まれる成功と失敗の両面を垣間見ることができる貴重な事例となっています。そして、開発段階で多くの困難に直面し、日の目を見ることのなかったこのマシンの存在は、F1の歴史における「もしも」を想像させる、興味深いエピソードとして語り継がれています。

もしも、このBT39が成功を収めていたら、F1の歴史はどのように変わっていたのでしょうか？ そのような想像を掻き立てられる、忘れ去られた1台のF1マシン、それがブラバムBT39です。その存在は、技術開発における挑戦と挫折、そしてF1という世界における常に高いハードルを示す一つの象徴となっています。

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