ブリュートナー

ユリウス・ブリュートナー：歴史と伝統、そして比類なき音色

ユリウス・ブリュートナー・ピアノフォルテファブリック（Julius Blüthner Pianofortefabrik GmbH）は、1853年、ドイツのライプツィヒでユリウス・ブリュートナーによって創業された老舗ピアノメーカーです。スタインウェイ＆サンズ、ベーゼンドルファーと並び称される世界三大ピアノメーカーの一つとして、ヨーロッパを中心に高い知名度を誇ります。

独自の弦構造：アリコートシステム

ブリュートナーピアノの最大の特徴は、特許を取得した「アリコートシステム」と呼ばれる独自の弦構造にあります。一般的なピアノは1音に対して3本の弦を使用しますが、ブリュートナーは高音部に4本目の弦、アリコート（共鳴弦）を追加しています。このアリコートはハンマーで打たれることはなく、共鳴のためにのみ存在し、倍音を増幅することで、豊かで輝きのある、比類のない響きを生み出します。

初期のモデルでは、アリコートは他の3本の弦の上に配置され、独立した駒で響板を振動させていましたが、近年のモデルでは4本の弦が同じ高さに一列に配置され、より純度の高い高音を実現しています。この技術革新は、ブリュートナーの音色をさらに洗練させ、世界中の音楽家たちを魅了し続けています。

数々の栄誉と著名な愛用者

創業以来、ブリュートナーは数々の国際的な賞を受賞しています。1867年から1905年にかけて、パリ、ウィーン、シドニー、メルボルンなど各地で開催された博覧会でファーストプライズを獲得し、1900年パリ万博、1904年セントルイス万博などでもグランプリを受賞するなど、その高い技術と芸術性は世界的に認められています。

その音色は、ブラームス、リスト、チャイコフスキー、ドビュッシー、ショスタコーヴィチといった巨匠たちの作品を彩り、ブゾーニ、ルービンシュタイン、プレトニョフなどの名だたるピアニストたちにも愛用されてきました。特に、クロード・ドビュッシーはブリュートナーを唯一自ら購入し、愛用していたことで知られています。

さらに、ヨハン・シュトラウス2世、フルトヴェングラー、メニューインといった著名な音楽家たちもブリュートナーを高く評価し、その演奏に使用しました。20世紀最高の指揮者と称えられるフルトヴェングラーは、「ブリュートナーピアノは真に歌うことができる。おそらくこれは、楽器に呈する讃辞として最高のものである。」と、その素晴らしい音色を称賛しています。

ビートルズの「レット・イット・ビー」のレコーディングでもブリュートナーが使用され、近年ではフジ子・ヘミングや中国のピアニスト牛牛など、多くのアーティストがブリュートナーを選んでいます。録音においてもブリュートナーを使用する世界的ピアニストが増加しており、その人気は衰えることを知りません。

歴史の試練と復興

第二次世界大戦中の空襲で工場が被災し、大きな損害を受けましたが、ブリュートナーはその後も復興を遂げ、1990年の東西ドイツ統一後は、ブリュートナー家に経営権が返還され、順調に業績を伸ばしています。2005年にはヨーロッパにおけるコンサートグランドピアノの販売台数で2位を獲得するなど、その地位を確固たるものとしています。

多様なモデルとグローバルな展開

現在、ブリュートナーは6種類のグランドピアノと5種類のアップライトピアノを製造しており、そのサイズは154cmから280cmまでと幅広く、様々なニーズに対応しています。また、Blüthner-Haessler、Haessler、Irmlerといったブランドも展開し、世界中にその製品を提供しています。日本においても、2008年からは有限会社ピアノクリニックヨコヤマが日本総代理店として、正規販売を行っています。

まとめ

170年以上の歴史を持つユリウス・ブリュートナーは、その卓越した技術と芸術性、そして比類なき音色で、世界中の音楽家たちを魅了し続けています。アリコートシステムによる独特の響き、そして歴史に裏打ちされた信頼性は、他の追随を許さない、まさに至高のピアノと言えるでしょう。

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