ブルーインパルスジュニア

ブルーインパルスジュニアとは

航空自衛隊松島基地に所属する「ブルーインパルスジュニア」は、正式な飛行隊ではなく、隊員によるクラブ活動として運営されているユニークなチームです。彼らは、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が使用するT-4練習機を精巧に模して改造された原付オートバイを操り、地上でコミカルかつアクロバティックな展示走行を披露しています。この活動は1993年から始まり、全国各地の航空祭やイベントで多くの人々を楽しませています。

チーム結成の背景

チームの誕生は1990年代初頭、那覇基地の航空祭で披露された、戦闘機を模した改造原付バイクがきっかけでした。このバイクを製作した整備員が1992年に松島基地へ異動した際、ブルーインパルスの後継機としてT-4練習機が導入されることが決定し、機体デザインの一般公募も行われている時期でした。T-4のブルーインパルス塗装のデザインが決定すると、この隊員は同僚と協力して、改造バイクを使った演技チームの結成を計画します。計画実現には、資金よりも基地司令部の許可を得ることが大きな課題でしたが、第4航空団司令をはじめとする理解ある指揮官たちの承認と、整備隊員たちの熱意あるサポートを得て、1992年3月にチームは「ブルーインパルスジュニア」として正式に発足しました。実際の活動開始は1993年8月からですが、これは実機のT-4によるブルーインパルスが初めて一般公開された1994年よりも早く、地上版チームの方が先行して誕生したことになります。

沿革と活動の広がり

ブルーインパルスジュニアの記念すべきデビューは、1993年8月21日に地元で開催された「矢本町まつり」でした。翌日の松島基地航空祭では、悪天候で多くの飛行展示が中止となる中、彼らは雨の中でも3回の展示走行を行い、観客を沸かせました。1994年の松島基地航空祭では、初めて公開されたT-4ブルーインパルス実機と連携した演出も行われました。当初は隊員有志の同好会としての活動で、使用車両も廃車を寄せ集めて改造した手作りのものでしたが、その人気と真剣な活動が認められ、数年後には航空自衛隊の正式なクラブ活動として承認されました。これにより、展示車両には新車（初代ホンダ・ディオ、後に3代目ホンダ・ジャイロキャノピー）が導入されるなど、活動環境が向上しました。活動範囲も基地内に留まらず、1994年10月の岐阜基地航空祭を皮切りに、全国各地の航空祭や、民間イベントにも招かれるなど、活躍の場を広げていきました。ただし、クラブ活動のため、他基地での活動には他の部隊からの機材や人員輸送などの支援が必要となります。彼らのユニークな活動は、全国の他の基地にも刺激を与え、それぞれの部隊や航空機を模した様々な「ジュニア」チームが誕生するきっかけともなりました。しかし、2011年3月11日の東日本大震災による津波で、チームが所有する全車両が水没するという大きな被害を受け、走行展示は一時休止に追い込まれました。それでも、隊員たちの熱意と地元自治体や商工会の支援もあり、同年夏にはイベントでの車両展示、2013年には再びイベントでの展示を経て、同年8月24日の東松島夏祭りでは、震災後初めて6台全てが揃っての走行展示を成功させました。2014年9月には防衛省で開催された航空自衛隊創設60周年記念イベントに参加し、静浜基地のT-7ジュニア「リトルウィング」と共演。震災後初の4台での展示走行を行い、60周年を記念した新課目「クローバー」なども披露しました。

パフォーマンスと使用車両

ブルーインパルスジュニアは、T-4ブルーインパルスを模したカウルを装着した原付オートバイ6台を使用し、全国の航空祭などで「2次元アクロバット展示走行」を披露しています。彼らの演技は、実機ブルーインパルスと同様に、隊員が車両を押して入場する「ウォークバック」で始まり、様々な隊形での走行展示の後、「ウォークダウン」で締めくくられます。展示中には、ユーモアあふれるナレーションが流れ、「決して走っているのではなく飛んでいます」と称するなど、観客を飽きさせない演出が盛り込まれています。ナレーションは男性隊員が女性自衛官に扮して行うという、お茶目な一面も持ち合わせています。

チームが活動開始当初に使用していた車両は、廃車となったバイクを改造したもので、カウルはアルミ枠にベニヤ板と紙を貼り付けた手作りでした。正式なクラブ活動となってからは、新車のホンダ・ディオが導入され、2007年からは現在のホンダ・ジャイロキャノピーが使用されています。現在の車両に装着されているカウルは耐久性を考慮したFRP製で、実機のT-4と同様にアンテナ類やスモークノズルまで精巧に再現されています。演技中のスモークは、当初はビニール紐と扇風機で代用していましたが、1998年からは花火を使用することで、より本物に近い迫力ある演出が可能となりました。これらの車両の改造や維持にかかる費用は、基本的にチームメンバーの自腹で賄われており、隊員たちの情熱によって活動が支えられています。

多様な演技課目

ブルーインパルスジュニアの展示走行では、実機ブルーインパルスのパロディや、彼ら独自のアイデアから生まれた多種多様な課目が披露されます。代表的な課目には、以下のものがあります。

テイクオフ：1番機から4番機が離陸を模して発進します。
ガッタン・ガッタン：6機が縦一列で進入し、掛け声で車体を左右に振ります。
X交差：3機ずつの2列で進入し、会場中央で左右に激しくクロスします。
ナイフエッジ：会場左右から3機ずつが向かい合って進入し、すれ違います。
ダイヤモンド・クロス：3機と3機に分かれ、会場中央で90度に交差します。
アクション仮面・スペシャル：ダイヤモンド編隊の隙間を単独機がクロスします。
ハート：機体尾部から水を流しながら地上にハートを描きます。
必殺仕事人：テーマ曲に合わせて、左右に分かれた編隊の間を別の機体がすり抜けます。

これらの課目以外にも、「水平ターン」「デルタエイト」「レターエイト」「ローリングしないコンバットピッチ」「コークスクリュー」など、ユーモラスな名称と動きを持つ様々な演目があり、観客を飽きさせない工夫が凝らされています。

広がる「ジュニア」の輪

ブルーインパルスジュニアの活動は、自衛隊の他の基地にも影響を与え、独自の「ジュニア」チームが誕生するきっかけとなりました。これらのチームは、各基地に配備されている航空機や車両を模して改造されており、ブルーインパルスジュニアと同様に基地内外のイベントで人気を集めています。

航空自衛隊：小牧基地の軽自動車改造「C-130ジュニア」、静浜基地のT-7模倣「リトルウィング」、三沢基地のF-2模倣「F-2ジュニア」、高尾山分屯基地の自転車改造「高尾山レッドクラブ」（F-35模倣）、浜松基地のE-767模倣トライク「AWACSジュニア」、秋田分屯基地のUH-60J模倣軽ライトバン「UH-60Jジュニア」などがあります。高尾山レッドクラブのように、航空機が配備されていない基地で司令官自腹で編成されたユニークな例も存在します。
海上自衛隊：下総航空基地のP-3Cやイージス艦、潜水艦を模した改造バイクによる対潜戦チーム「ミニP-3C」が有名です。ラジコン魚雷やスモークなどの特殊効果も使用します。
* 陸上自衛隊：明野駐屯地には、AH-1コブラやOH-1観測ヘリを模した改造バイクチーム「ハヤテジュニア」「OH-1コメガ」があります。

これらのチームも、基本的に隊員たちのクラブ活動として運営されており、それぞれの基地の特色を活かした個性的なパフォーマンスで、地域の人々との交流を深めています。

ブルーインパルスジュニアは、隊員たちの熱意と創意工夫によって生まれ、震災という困難を乗り越えて活動を続ける、自衛隊のもう一つの「青い衝撃」として、多くのファンに愛されています。そのパフォーマンスは、単なる展示に留まらず、自衛隊の身近な存在を伝える重要な役割を果たしています。

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