ブルーインパルス牡鹿半島墜落事故

2000年 7月4日、宮城県牡鹿半島で発生した航空自衛隊のアクロバット飛行チーム、ブルーインパルス所属機2機の墜落事故について解説します。

事故概要

発生日時: 2000年 7月4日午後10時19分頃
発生場所: 宮城県牡鹿町光山
事故機: 航空自衛隊第4航空団第11飛行隊所属 T-4練習機2機
殉職者: 3名

訓練を終え松島基地へ帰投中のブルーインパルス5番機と6番機が、牡鹿半島の光山山頂付近にほぼ同時に墜落しました。この事故により、搭乗していた3名の隊員が殉職しました。同年3月には同じ第4航空団でT-2女川墜落事故が発生、さらに6日前にはC-1隠岐諸島沖墜落事故が発生しており、航空自衛隊の安全管理体制に対する批判が高まりました。この事故は、後に「航空自衛隊安全の日」制定のきっかけの一つとなっています。また、ブルーインパルスは1991年にも墜落事故を起こしており、今回の事故後、約1年間の対外活動を休止しました。

事故発生時の状況

事故当時、2機編隊は金華山沖での訓練を終え、松島基地へ帰投中でした。5番機（#720号機、A三等空佐搭乗）と6番機（#727号機、B三等空佐およびC一等空尉搭乗）は、松島基地から東南東約25kmの海上でレーダーから消失し、通信が途絶しました。当時の松島基地周辺の天候は曇りで、風速2.5mと有視界飛行状態でしたが、海霧が発生していた可能性が指摘されています。翌日、光山山頂付近で機体と3名の遺体が発見されました。

事故原因の究明

2機の機体は、墜落直前まで編隊を組んでいたとみられ、ほぼ同時に山頂付近に激突したと考えられています。ただし、5番機がそのまま激突したのに対し、6番機は5番機の異常を察知し、衝突回避を試みた形跡があり、バウンドしながら破壊されたことが判明しました。航空自衛隊の事故調査委員会は、事故編隊が約3km進む間に約600m降下したこと、事故現場付近が高高度飛行を必要とする空域であったことなどから、何らかの原因で高度の判断を誤ったことが事故原因であると推定し、調査を進めました。その結果、同年10月31日、松島基地は、2機が最後に行った曲技飛行で訓練空域から逸脱し、厚い雲間から見えた地上を誤って通常の飛行ルート上のポイントと認識し、誤った地点で降下を開始したことが原因であるとする調査結果を発表しました。

事故の背景

事故当時、航空自衛隊内部では安全管理体制に対する不安の声が上がっていました。特に、当時の司令官がパイロットの行動ルーチンを強制的に変更しようとしたことが、現場の不満を招いていたと指摘されています。ベテランパイロットたちは、司令官とパイロット間の対立が事故につながる可能性を懸念していました。

事故後の影響

第4航空団では、事故の4か月前にもT-2女川墜落事故が発生しており、その原因が未解明のまま訓練が再開されたことが、今回の事故を招いた一因であるとの批判も上がりました。2件の事故が女川原子力発電所の近隣で発生したことから、周辺自治体住民の不安が高まり、国会でも議論となりました。また、事故機のフライトデータレコーダーの解析により、松島基地が定めている女川原発から半径3.6kmの飛行制限空域に進入していたことが判明し、周辺自治体からの反発を招きました。

事故を受け、航空自衛隊は当分の間、訓練飛行を中止しました。松島基地航空祭でのブルーインパルスの展示飛行も中止され、航空祭自体も中止となりました。その後、訓練空域の変更や松島基地への進入経路の見直し、飛行最低高度の設定など、安全対策を実施した上で、2001年2月から訓練を再開しました。展示飛行は、2001年8月の松島基地航空祭でソロ2機による飛行から再開され、6機による展示飛行は2002年12月の岐阜基地航空祭から再開されました。

ブルーインパルス牡鹿半島墜落事故