ブレン・テン

ブレン・テン：理想と現実の間で揺れた伝説の拳銃

ブレン・テンは、1984年からわずか2年間のみ、アメリカのドーナウス&ディクソン社(D&D社)によって製造・販売された自動拳銃です。10mmオート弾という当時としては革新的な弾薬を採用し、高いストッピングパワーを追求した意欲作でしたが、様々な要因が重なり、市場から姿を消しました。

開発の背景

ブレン・テンの開発は、著名なコンバットシューター、ジェフ・クーパーがチェコスロバキア製の傑作拳銃Cz75を絶賛したことがきっかけです。しかし、冷戦下でCz75の入手が困難であったため、D&D社がアメリカ版Cz75を製造することを決意しました。クーパーも開発に参画し、10mmオート弾という強力な弾薬を採用。こうして、ブレン・テンは誕生しました。

その名称は、かつてチェコスロバキアと英国が共同開発したブレン軽機関銃に由来し、ベースとなったCz75との関連性を暗示しています。

特徴：理想の追求と設計の難しさ

10mmオート弾の開発背景には、1980年代初頭のアメリカにおける犯罪の凶悪化がありました。当時の警察官が使用していた.38スペシャル弾では威力不足が指摘され、より強力な弾薬が求められていたのです。9mmパラベラム弾は威力不足、.45ACP弾は装弾数が少ないという問題を抱えていました。そこで、9mm弾よりも強力で.45ACP弾よりも貫通力に優れた10mmオート弾が、理想的な選択肢として浮上しました。

当初、10mmオート弾は、弾頭重量200gr(13g)、銃口初速1200ft/s(370m/s)、初活力870Jという高いスペックを目指していました。これは、9mmパラベラム弾や.45ACP弾を大きく上回る数値です。ジェフ・クーパーも「10mmオート弾こそオールマイティ」と宣伝に尽力しました。

しかし、目標性能を達成するために、10mmオート弾は全長25mmという長い薬莢を必要とし、これが銃の設計を困難にしました。高いパワーに耐えうる頑丈な銃が必要となったのです。この10mmオート弾の課題が、後に.40S&W弾誕生のきっかけになったことは特筆すべきでしょう。

ブレン・テンは、Cz75をベースにしながらも、独自の改良が施されています。フレームがスライドを挟み込む構造やトリガーメカはCz75をコピーしましたが、ブレン・テンには、スライドにマニュアルのクロスボルト式ファイアリングピンロックが追加され、安全性が向上しました。しかし、この安全装置の操作性は疑問視されました。トリガーはダブルアクションですが、デコッキング機能やAFRBは搭載されていません。また、右グリップには、マガジンキャッチセレクターカムという独自の部品が組み込まれており、マガジンの落下を防ぐ役割を果たします。Cz75の弱点だったサイトも改良され、実用的なものになりました。

銃身内のライフリングは、メーカー独自の「パワー・シール・ライフリング」と呼ばれる特殊な形状をしており、銃身の寿命が長いとされています。スライドは従来の通りスチール製ですが、フレームはステンレス製で、汗に強く錆びにくいという利点があります。フレーム左側面には、ジェフ・クーパーが経営する射撃訓練施設「ガンサイト」のトレードマークであるワタリガラスのマークが刻印されています。

販売時の混乱と評価

ブレン・テンのプロトタイプが発表されたのは1980年頃でしたが、本格的な市販開始は1984年と、5年もの歳月を要しました。販売開始当初から、マガジンの供給問題が発生。外注先のMec-gar社のマガジン生産が遅れ、ユーザーにはマガジンなしの銃が送られるという事態に陥りました。さらに、送られたマガジンも不良品だったり、銃本体に合わないなどのトラブルが続発しました。ユーザーはD&D社に直接乗り込んだり、訴訟を起こすと主張する者まで現れました。

10mmオート弾の供給も問題でした。当時、10mmオート弾を製造していたのはスウェーデンのノルマ社のみで、入手が困難だった上、価格も高価でした。肝心の弾薬の性能も、当初の公称値には届かず、ユーザーを失望させました。

発売後間もなく、ブレン・テンのフレームに亀裂が入る事例が発生し、銃本体の強度不足が指摘されました。

しかし、ブレン・テンは、人気テレビドラマ『マイアミ・バイス』に登場し、一躍有名になりました。このドラマでは、主人公の銃として活躍しましたが、販売の促進には繋がりませんでした。

ブレン・テンに対する評価は、専門家の間でも分かれています。月刊Gun誌のターク・タカノは「傑作」と評価しましたが、同じ月刊Gun誌のジャック・タクボは、製品の信頼性に疑問を呈しました。タクボは、自ら購入したブレン・テンでトラブルを経験し、「オモチャ屋が作ったような物」と酷評しました。しかし、後のテストでは良い結果を出し、「名銃のひとつと言えるかもしれない」と評価を改めました。両氏に共通する評価は、人間工学的に優れたデザインであるという点でした。

実際の性能としては、デザインの良さからくる撃ちやすさにより、実戦形式のテストでの命中率は高いと言われています。集弾性能も、25mの距離で5発×5グループの平均が72.8mmと、実用上問題ないレベルです。

その後

ブレン・テンは、FBIが10mmオート弾を採用したにも関わらず、商業的には成功しませんでした。1986年、D&D社は倒産し、ブレン・テンの生産は終了しました。ジェフ・クーパー自身も、「10mmオート弾とブレン・テンには使い道がなかった」と結論づけています。クーパーは、10mmオート弾のメリットは遠距離射撃のみで、近距離での自己防衛には不要だったと考えています。

現在でも、10mmオート弾はハンティング用として一定の需要がありますが、同程度の威力を持つ.357マグナム弾の方が、銃の種類も弾薬も豊富で使いやすいのが現状です。

バリエーション

ブレン・テンには、様々なバリエーションが存在します。

スタンダード・モデル: ツートンカラーの5インチ銃身モデル。
ミリタリーポリス・モデル: ブラック仕上げのモデル。
マークスマン・スペシャル・マッチ・モデル: .45ACP仕様の限定モデル。
デュアル・マスター・プレゼンテーション・モデル: エングレービング入りで、10mmと.45ACPのスライドアッセンブリーのセット。
ジェフ・クーパー・イニシャル・イシュー・コメモラティブ・モデル: ジェフ・クーパーの名前を刻印した限定モデル。
アメリカン・ピストル・インスティチュート・ブレンテン: ガンサイト仕様のモデル。
スペシャル・フォーセズ・ライト: 4インチ銃身で、銀色のモデル。
スペシャル・フォーセズ・ダーク: 4インチ銃身で、黒色のモデル。
XM-9ブレン: 米軍のトライアル用に作られた9mmパラベラムモデル。
ポケット・モデル: 4インチ銃身で、コンパクトなモデル。

登場作品

ブレン・テンは、以下の作品に登場します。

映画・テレビドラマ:
『CSI:科学捜査班』
『特捜刑事マイアミ・バイス』
漫画・アニメ:
『アメリカなんて大きらい!』
『ゼロイン』
『霊能探偵ルナ&サイコ』
日本製玩具:
ファルコン・トーイのガスガン
マルシン工業のガスガン（ブレンテンMAXI）

まとめ

ブレン・テンは、理想的なスペックを追求した意欲的な拳銃でしたが、製造上のトラブルや市場の混乱により、短命に終わりました。しかし、その特異な経緯やドラマでの登場が、一部のファンを魅了し続けています。ブレン・テンは、理想と現実の間で揺れた、伝説の拳銃として、その名を歴史に刻んでいます。

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