プジョー・908 HDi FAP

プジョー908 HDi FAP：ル・マン24時間レース挑戦記

プジョー908 HDi FAPは、プジョーが2007年から2010年にかけてル・マン24時間レースに挑戦するために開発したプロトタイプレーシングカーです。フランス西部自動車クラブ（ACO）のレギュレーション変更を受け、それまでのオープンボディとは異なり、クローズドボディを採用した点が大きな特徴です。この設計変更は、コックピットの温度管理を容易にし、結果的にエアリストリクターの拡大に繋がり、エンジンのパフォーマンス向上に貢献しました。

マシン概要

シャシー

ACOの規定に沿って設計されたクローズドボディは、ドライバーの快適性と安全性を向上させました。エアコンの搭載が可能になったことで、ドライバーの集中力維持に大きく寄与したと言えるでしょう。

エンジン

搭載されたのは、ル・マン・プロトタイプ規定で許容される最大排気量である5.5リッターV型12気筒ディーゼルエンジンです。100度のバンク角を持つこのエンジンは、公称700馬力、最大トルク1200N・mを発生します。実際には850〜900馬力程度を発揮していたと推測されています。エンジンマネージメントシステムとインジェクションシステムはボッシュ製、燃料システムはトタルとの共同開発、ギアボックスの設計と組み立てはリカルドが担当しました。各分野のトップ企業との連携により、プジョー908 HDi FAPは高い信頼性と性能を誇りました。

参戦履歴と戦績

プジョー908 HDi FAPのデビュー戦は2007年のル・マン・シリーズ開幕戦、モンツァ1000kmレースでした。予選でフロントローを独占、決勝では1位と3位を獲得し、いきなり勝利を収めました。続くル・マン24時間レースでは、予選でトップタイムを記録しポールポジションを獲得するも、決勝ではマシントラブルや天候に苦しみ、アウディに優勝を譲りました。

2008年は、3台体制でル・マン24時間レースに参戦。予選では1位から3位を独占する圧倒的な速さを見せつけました。決勝では、序盤はトップを快走するも、マシントラブルやドライバーのミス、そしてアウディの粘り強い走りによって再び優勝を逃しました。

2009年、ついにプジョー908 HDi FAPはル・マン24時間レースで5連覇中のアウディを破り、総合1-2フィニッシュを達成しました。1993年のプジョー905以来、非ドイツメーカーのエンジン搭載車によるル・マン制覇となりました。

2010年は改良型908で参戦しましたが、マシントラブルにより全車リタイアという結果に終わりました。エンジンの耐久性の問題が敗因の一つとして挙げられています。平均速度ではアウディを上回っていただけに、非常に悔やまれる結果となりました。

まとめ

プジョー908 HDi FAPは、高いポテンシャルを秘めたマシンでしたが、ル・マン24時間レースという過酷な舞台において、マシントラブルや天候、そしてライバルのアウディとの総合力において競り負けるという経験を積みました。これらの経験は、後のプジョーのモータースポーツ活動に大きな影響を与えたことは間違いありません。その圧倒的な速さとドラマチックなレース展開は、今もなお多くのモータースポーツファンを魅了し続けています。

もう一度検索