プラット・アンド・ホイットニー J58

プラット＆ホイットニー J58エンジン

プラット＆ホイットニーJ58は、ロッキードのYF-12やSR-71、A-12に搭載された先進的なジェットエンジンです。このエンジンは可変バイパス比のアフターバーナーを備えたターボジェットであり、特にマッハ3以上の速度での飛行を実現しました。J58は32,000 lbf（約142 kN）の推力を発生させ、アメリカ空軍が初めて使用したマッハ3を達成するためのエンジンとなりました。

特徴と技術

J58の最も重要な技術的特徴は、コンピュータ制御による可変吸気口です。この吸気口は、飛行速度に応じてショックコーンの位置を調整し、超音速飛行時にもエンジンに流入する空気の速さを亜音速に安定させます。また、J58には可変サイクルの機構があり、抽気を利用してバイパス流を生成する点が、新しいエンジンの設計として注目される要因となっています。

エンジンの始動には通常の航空機用の起動装置ではなく、ビュイック・ワイルドキャットのV8エンジンを利用した特別な始動機である『AG330 始動機』が使用されました。この始動機は、エンジンを3,200 rpmまで回転させることで、燃料とトリエチルボラン（TEB）を供給し点火を行います。点火時にはTEBの燃焼により特徴的な緑色の炎が現れます。

燃料と運転条件

J58では、エンジン内部を冷却するためにJP-7という特別な燃料が開発されました。この燃料は、低揮発性で熱安定性が高い一方で、着火が難しいため、始動時や低温での運転時にはTEBを添加して使用されます。さらに、エンジンの各部分は極めて高温になるため、これを考慮した設計が求められました。

エアフロー制御

エンジンの空気流制御は、J58エンジンの設計において極めて重要です。具体的には、ショックコーンがマッハ2.5以下で前進し、超音速飛行時には後退することで、吸気係数を最適化します。また、各種バイパスドアやブリードシステムを通じて、流入する空気の量や圧力を調整し、エンジンが安定して動作するように制御されています。

特に、エンジンがマッハ2.5を超えると後方バイパスドアが開き、過剰な空気供給を防ぐ設計になっています。エンジンの性能を最大限に引き出すため、これらの機構が連携して瞬時の環境の変化にも適応できるようになっています。

まとめ

プラット＆ホイットニーJ58エンジンは、超音速飛行における運動性能を極限まで高めるための先進的な技術を多数搭載しています。可変吸気口の制御や抽気機構の導入により、このエンジンはただ単に強力な推力を生み出すだけでなく、複雑な空気流制御を通じて高高度・高速度を維持する能力を実現しています。J58は、ジェットエンジンの歴史の中で重要な位置を占めているのです。

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