プラーニュ

プラーニュ（Planh）

プラーニュは、中世プロヴァンス地方で活躍した吟遊詩人であるトルバドゥールによって創作され、歌われた哀悼歌の一形式です。プロヴァンス語では「Planh」と呼ばれます。この歌は、特定の人物の死、特に高貴な身分や重要な人物の死去に際して、その死を悼み、故人の徳や功績を讃え、あるいは喪失の悲しみを表現するために詠われました。

プラーニュの形式は、同時代に教会や学術的な文脈で歌われた中世ラテン語の哀歌である「プランクトゥス（Planctus）」を手本としていると考えられています。プランクトゥスが主に宗教的な主題や聖人の生涯、あるいは聖書の物語における悲嘆を扱ったり、修道院などの場や聖職者に向けて歌われたりしたのに対し、プラーニュは基本的に世俗的な主題、すなわち現実の人物の死を扱い、宮廷や貴族階級など、より世俗的な聴衆を対象としていた点が大きな違いです。これにより、プラーニュはトルバドゥール文学の多様なジャンルの中でも、社会的な出来事や個人的な感情が色濃く反映されるジャンルとなりました。

プラーニュは、単なる悲嘆の表明にとどまらず、亡くなった人物がいかに偉大であったか、その死がいかに大きな損失であるかを強調し、故人の功徳を讃えることで、生きている人々、特にパトロンであったり社会的に重要な立場にあったりする人物への敬意を示す役割も担いました。また、歌い手であるトルバドゥール自身の喪失感や、故人の死が自分自身の境遇に与える影響について言及することもあり、個人的な感情と社会的な側面が結びついた複雑な性格を持っています。

著名な文学研究者であるアルフレッド・ジャンロワは、プラーニュがどのような人物に向けて捧げられたかという観点から、このジャンルを大きく三つのカテゴリーに分類しました。

1. 偉大な人物への哀悼歌: 国王、公爵、伯爵といった高名な君主や、トルバドゥールの活動を支援した強力な庇護者（パトロン）など、社会的地位の高い「偉大な人物」（grandes personnages）の死を悼むために作られたプラーニュです。これらの歌は、故人の権力や美徳を讃え、その死が社会全体にもたらす損失の大きさを強調することが多いです。
2. 家族または友人への哀悼歌: 作者自身の近親者、例えば妻や息子、あるいは親しい友人や同僚トルバドゥールの死を悼むために歌われたプラーニュです。個人的な悲しみや愛情、喪失感がより直接的に表現される傾向があります。
3. 淑女または恋人への哀悼歌: トルバドゥール文学の中心テーマの一つである「高貴な愛」（fin'amor）の対象であった淑女や、現実の恋愛関係にあった女性の死に対する哀悼を歌ったプラーニュです。失われた愛する人への悲嘆や、その死が作者の感情生活に与える影響が詠われます。

これらの分類は、プラーニュが単一の感情や目的で詠われるのではなく、故人との関係性や歌われる状況に応じて多様な性格を持ちうることを示しています。

プラーニュは、トルバドゥール文学の中でも比較的数が限られたジャンルではありますが、当時の社会における死生観や人間関係、そしてトルバドゥール自身の感情世界を理解する上で貴重な資料となっています。多くの研究者によって、個々の作品の分析やジャンル全体の歴史的変遷などが研究されています。

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