プレソドン科

プレトドン科 (Plethodontidae)

プレトドン科は、両生綱の有尾目サンショウウオ亜目に属する動物群です。一般にはアメリカサンショウウオ科、あるいはその最大の特徴からムハイサラマンダー科とも呼ばれます。現生の有尾目全体のおよそ三分の二にあたる非常に多くの種を含む最大のグループであり、サンショウウオ類の中でも特に多様な適応を遂げた、最も進化が進んだ一群であると考えられています。学名のPlethodontidaeは古代ギリシャ語に由来し、「多くの歯を持つもの」という意味を持っています。

特徴

この科のサンショウウオが持つ最も際立った特徴は、肺を全く持たないことです。彼らは肺呼吸をせず、主に湿った皮膚や口腔内の粘膜を通して呼吸に必要な酸素を取り込み、二酸化炭素を排出します。この無肺という特徴は、彼らの祖先が速い流れの渓流に生息していた環境に適応した結果と考えられています。水中で体が浮き上がることを避けるため、浮力を生み出す肺が退化し、より水底に留まりやすい体になったという説が提唱されています。

生殖においては体内受精を行います。多くの種は、水辺ではなく陸上の比較的湿った場所に卵を産み付けます。このグループの大きな特徴の一つとして、卵から孵化する際に幼生の期間を経ず、親と同じ形態の小さな幼体として直接発生する種が多いことが挙げられます。陸上での産卵は、乾燥やカビといったリスクに曝されやすいため、卵を守るための親による保護行動がよく見られます。中には、孵化した後の幼体を一定期間保護する習性を持つ種も確認されています。

その他の特徴としては、上唇と鼻孔の間に位置する細長い溝状の器官である鼻唇腺（びしんせん）を持ち、これを嗅覚に利用しています。繁殖期には、複雑で種固有の多様な求愛行動を見せることも知られています。

プレトドン科には非常に多様な生態を持つ種が含まれます。生涯を水中で過ごす完全水生の種や、特定の環境下で幼生の形態のまま性成熟を迎える幼形成熟種、陸上での生活に完全に適応した種、さらには樹上性で生活する種まで存在します。体の大きさも種によって大きく異なり、成体で約2.7センチメートルという小型種から、約32.5センチメートルにも達する大型種まで様々です。

分布

プレトドン科のサンショウウオは、主に北米大陸に広く分布しています。その範囲は、アラスカの最南部からカナダのノバスコシア州を経て、アメリカ合衆国全土に及びます。特にアパラチア山脈周辺地域は種の多様性が非常に高く、多くの種が集中して生息しています。

また、南米大陸の中央ボリビアやブラジル南東部にも分布が見られます。南半球に自然分布する有尾目としては、このプレトドン科が唯一の存在です。

さらに興味深いことに、北米大陸や南米大陸から遠く離れた地域にも孤立した分布域が存在します。南ヨーロッパの南フランス、イタリア、サルディニア島には、ミズカキサンショウウオ属（_Hydromantes_）の数種が分布しています。また、2005年には韓国でプレトドン科の新種（_Karsenia koreana_）が発見され、東アジアにも生息することが明らかになりました。これらのヨーロッパや東アジアへの分布は、遠い地質時代、具体的には新生代の漸新世（約3390万年～2303万年前）に、当時陸続きであったベーリング地峡を経由してユーラシア大陸に進出したグループの子孫が、その後の環境変化の中で生き残った「遺存個体群」であると考えられています。

分類

プレトドン科は、大きくウスグロサンショウウオ亜科（Desmognathinae）とアメリカサンショウウオ亜科（Plethodontinae）の二つの亜科に分けられています。ウスグロサンショウウオ亜科にはウスグロサンショウウオ属などが含まれ、アメリカサンショウウオ亜科にはキノボリサンショウウオ属、ホソサンショウウオ属、ネッタイキノボリサンショウウオ属、タコサンショウウオ属、ミズカキサンショウウオ属、アメリカサンショウウオ属など、多様な形態や生態を持つ非常に多くの属が含まれています。これらの属には、それぞれ固有の特徴を持つ多様な種が含まれており、プレトドン科全体の生態学的、形態的多様性を形成しています。

参考文献

* 松井正文著『両生類の進化』（東京大学出版会） ISBN 4-13-060163-6

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