プログレスM-5

概要

プログレスM-5は、1990年に旧ソビエト連邦が運用した無人の宇宙補給船です。その主たる目的は、当時軌道上にあった宇宙ステーション「ミール」への物資供給でした。ミールへの補給任務に投入されたプログレス補給船は合計64機に及びますが、プログレスM-5は、そのうち23番目に運用された機体にあたります。この宇宙船は、プログレス-M（GRAUインデックス11F615A55）と呼ばれる改良型シリーズの一つであり、製造番号は206番でした。

搭載物資

プログレスM-5には、ミールに滞在する宇宙飛行士（ミールEO-7クルー）が長期にわたる宇宙生活を送るために不可欠な物資が搭載されていました。具体的には、食料品、飲料水、生命維持に必要な酸素などが含まれます。また、宇宙空間での様々な科学研究活動に使用される装置類や実験機器も積載されていました。さらに、ミールの軌道を維持したり、必要な軌道変更（マニューバ）を実行したりするための燃料も、補給物資の一部として運ばれました。

プログレスM-5の特に重要な特徴として、搭載された物資の一部を地球へ持ち帰ることができる「VBKラドゥガ」と呼ばれる再突入カプセルを搭載していた点が挙げられます。プログレス補給船は通常、ミールでの任務を終えた後、回収されることなく大気圏へ再突入して焼却処分されますが、VBKラドゥガを搭載した機体では、貴重な実験サンプルや不要となった機器などをカプセルに収納し、地球へ帰還させることが可能でした。プログレスM-5は、このVBKラドゥガカプセルを搭載して飛行した、数少ないプログレスM型補給船の第一号機にあたります。合計10機のプログレスM型補給船がこのカプセルを搭載して打ち上げられましたが、その最初の機体がプログレスM-5でした。

運用経過

プログレスM-5の打ち上げは、協定世界時（GMT）1990年9月27日10時37分42秒に行われました。発射は、現在のカザフスタン共和国に位置するバイコヌール宇宙基地の1番/5番発射台より、ソユーズ-U2ロケットによって実施されました。宇宙への旅立ちから約2日後、プログレスM-5はミール宇宙ステーションに接近し、GMT 1990年9月29日12時26分50秒に、ミールの中核モジュール（コアモジュール）の前方にあるドッキングポートに無事結合しました。

ミールとプログレスM-5が結合した期間は、約59日間に及びました。このドッキング期間中、ミール宇宙ステーションは、地球上空およそ370kmから411kmの高度を維持しつつ、軌道傾斜角51.6度で周回していました。プログレスM-5は、搭載していた燃料を用いてミールの軌道維持や制御を支援しました。

所定の補給任務とその他の運用を終えたプログレスM-5は、GMT 1990年11月28日6時15分46秒にミール宇宙ステーションからドッキングを解除しました。その後、同日の10時24分28秒頃には地球周回軌道から離脱するための逆噴射を行い、大気圏へ再突入する経路に乗りました。

大気圏に突入したプログレスM-5本体は、断熱圧縮によって発生する高熱により燃焼・分解しました。燃え残りの一部は、最終的に太平洋上の指定された海域に落下しました。一方、プログレスM-5に搭載されていたVBKラドゥガカプセルは、本体から分離された後、単独で地球へ向けて降下しました。カプセルはパラシュートを展開して減速し、GMT 1990年11月28日11時4分5秒頃、現在のロシア連邦国内の地上に無事着陸し、回収されました。これにより、カプセル内に収納されていた物資が地球へ持ち帰られました。

プログレスM-5は、ミールへの重要な補給任務を遂行するとともに、将来の宇宙ステーション運用や物資回収技術の開発に貢献するVBKラドゥガカプセルの試験運用を成功させた機体として、その運用は完了しました。

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