プログレスMS-12

プログレスMS-12は、国際宇宙ステーション（ISS）への重要な物資輸送を担ったロシアの無人宇宙補給船です。ロシア語ではПрогресс МC-12、製造番号442と呼ばれ、NASAではプログレス73Pの呼称が与えられています。これは、ソ連時代から続くプログレス宇宙機としては164回目の飛行にあたります。

プログレスMSシリーズの改良点

プログレスMSシリーズは、先行するプログレスMシリーズを基に開発された無人補給船であり、特に航法装置に重点を置いた改良が施されています。2015年12月21日に初めて打ち上げられたこの強化型では、次のような改良点が加えられました。

人工衛星展開機能: 新しい外部コンパートメントを搭載し、人工衛星の展開が可能となりました。各コンパートメントには最大4個の人工衛星用発射コンテナーを収納可能です。この機能はプログレスMS-03で初めて採用されました。
冗長性の向上: ドッキングおよび密閉機構を制御する電気モーターに予備システムを追加することで、システムの信頼性が向上しました。
微小隕石防護: 貨物コンパートメントにパネルを追加することで、宇宙空間の微小隕石に対する防護力が強化されました。
ルーチ中継衛星との連携: ロシアのルーチ中継衛星とのリンク機能により、地上局の通信圏外にあっても、テレメトリデータの送信や機体の制御が可能となりました。
GNSS自律航法: 全地球測位システム（GNSS）を用いた自律航法により、地上局による追跡に依存することなく、機体自身の状況ベクトルや軌道パラメーターを決定できるようになりました。
ISSとの直接通信: 宇宙ステーションとの間で直接無線データ交換を行う機能により、リアルタイムでの相対ナヴィゲーションが可能となりました。
新しいデジタル無線システム: ドッキング操作時に強化されたTV視野を提供する、新しいデジタル無線システムが導入されました。
システム換装: ウクライナ製のChezara Kvant-V無線システムおよびアンテナ・フィーダー・システムが、統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）によって置き換えられました。
ドッキングシステムの更新: クルスAアナログシステムから、クルスNAデジタルシステムへの置き換えが行われました。

プログレスMS-12のミッション経過

打ち上げ前計画

プログレスMS-12の打ち上げ計画は、当初の予定から複数回変更されました。2014年には2018年7月1日に予定されていましたが、その後2019年6月5日、さらに同年7月31日へと延期されました。この打ち上げ計画の変更により、当初設定されていた3日間を要するステーションへのランデブープロファイルから、大幅に短い2軌道（約3時間）での高速ランデブー飛行が可能となりました。

打ち上げ

プログレスMS-12は、2019年7月31日12時10分46秒（協定世界時、UTC）に、ソユーズ2.1aロケットを用いてバイコヌール宇宙基地の31/6番射点より宇宙へと打ち上げられました。

ISSへのドッキング

打ち上げ後、プログレスMS-12は予定通りISSへの高速ランデブー飛行を行い、ピアース・モジュールへのドッキングに成功しました。ドッキングにかかった時間は3時間18分31秒であり、当時の新記録となりました。

搭載貨物

プログレスMS-12宇宙機は、合計1164kgの与圧貨物をISSへ運びました。搭載された物資は多岐にわたり、その内訳は以下の通りです。

水（ロドニック・システム・タンクに搭載）：420 kg
酸素（加圧瓶に搭載）：51 kg
補給船自身の推進剤タンクへの補給分：850 kg
ISSの統合推進システム用の推進剤：880 kg

与圧貨物の詳細な内訳は以下の通りです。

搭載システムのハードウェア：394 kg
医療資材：27 kg
個人保護具：1 kg
サニタリー・衛生用品：190 kg
修理・整備用機器：7 kg
食料：282 kg
乗組員サポート手段：20 kg
その他のペイロード：13 kg
その他のハードウェア構成部品：38 kg
* NASA提供の貨物：192 kg

ドッキング解除とミッション終了

長期にわたるISS滞在後、プログレスMS-12は2020年11月29日10時25分（UTC）に国際宇宙ステーションからドッキングを解除しました。その後、13時39分（UTC）に減速のための軌道変更を開始し、14時11分（UTC）に大気圏に再突入してミッションを終えました。機体の燃え残りは、14時19分（UTC）に太平洋上へ落下しました。

もう一度検索