プロメテ (フォーレ)
ガブリエル・フォーレの『プロメテ』作品82は、全3幕からなる「抒情悲劇」と銘打たれた舞台作品です。象徴派の詩人ジャン・ロランとアンドレ・フェルディナン・エロルドがフランス語のリブレットを執筆しました。この作品は1900年8月27日、南フランスのベジエにある円形劇場（アレーヌ・モデルヌ・ド・ベジエ）で初演されました。
本作は、古代ギリシャの劇作家アイスキュロスによる悲劇『縛られたプロメテウス』の冒頭部分を下敷きにしています。初演は野外劇場で行われ、その規模は非常に壮大でした。約800名もの演奏者が参加し、これには2つの吹奏楽団や15台のハープ奏者が含まれていたといいます。約1万人もの観客がこの歴史的な上演を見守りました。
作曲者フォーレは本作を「抒情悲劇」として構想しましたが、その独特な形式から、一般的なオペラとして分類することは容易ではありません。大規模な声楽と管弦楽を伴いながらも、通常のオペラとは異なる側面を持っています。音楽学者の間でもその位置づけについては様々な意見があります。例えば、ある見解では「グランド・カンタータ」と呼び、舞台上で演技する登場人物が限定的であることから、純粋なオペラとは異なる性質を持つと指摘されています。また別の見解では、イタリア風オペラ、ワーグナーの楽劇、そして劇付随音楽といった異なる音楽劇の要素が複合された作品であると捉えられています。本作には、フォーレ作品の中でもワーグナーの影響が比較的明確に表れているという指摘もあります。一方で、『ニューグローヴ世界音楽大事典』では、台詞による幕間劇を含む「トラジェディ・リリック」と評されており、ナレーションを加えることでコンサート形式での上演にも適応しやすい性質を持つとされています。ただし、オリジナルの台詞は現代ではやや古めかしく感じられるため、これがコンサート上演の一般的な解決策となっているとも述べられています。
初演の大規模な編成は、その後の再演を難しくする要因の一つとなりました。そのため、1914年から1916年にかけて、作曲家ジャン・ロジェ＝デュカスによってオーケストラの規模を縮小した改訂版のスコアが作成されました。この改訂版は、後にフォーレ自身も手を加えており、1917年5月17日にはパリ・オペラ座で上演されました。しかし、この縮小版をもってしても、本作が広く普及し人気を得るには至りませんでした。
現在においても、『プロメテ』が上演される機会は極めて稀です。しかし、2011年7月にはブラジルのサンパウロで大学オペラセンターによる公演が行われた例があります。このブラジルでの上演では、オリジナルの台詞部分に代えてレチタティーボ（歌うような台詞）が用いられ、指揮と演出を担当したパウロ・マロンによる新たなオーケストレーションが施されるなど、工夫が凝らされました。
作品の筋立てについては、一部で「つぎはぎで、大半が凡庸である」といった批判も聞かれます。特に、プロメテの対抗者として重要な役割を担うはずのパンドールの導入が効果的ではない点が指摘されています。第1幕の終盤で彼女が倒れ、あたかも死んだかのように描かれた後、第2幕が彼女の遺体を運ぶ葬列で始まる構成は、劇的な流れとしては不自然に感じられる可能性があります。さらに、彼女がプロメテの対抗馬として物語に関わり続けるために、第2幕の後半で非現実的な形で復活し活躍するという展開も、整合性の問題を指摘されることがあります。
物語は全3幕で展開されます。
第1幕
前奏曲に続いて、アンドロス率いる男性たちとアエノエ率いる女性たちが、プロメテが人間に与えた火の恩恵を喜び歌う合唱から幕が上がります。プロメテは火がもたらす利点を称賛しますが、パンドールは神ゼウスに逆らうプロメテの行動に反対の意を示します。そこへ大地の女神ガイアが現れ、タイタン神族であるプロメテにその行為がもたらす結果について警告を与えます。ガイアに続いて、ゼウスによって罰するために送られた力強さの神クラトスと暴力の神ビアが登場します。彼らと共に、プロメテの友人である火と鍛冶の神エパイストスも現れます。クラトスとビアはプロメテにゼウスからの刑罰を宣告します。それは、彼を永遠に岩に鎖で縛りつけ、毎日黒い鷲が飛来してその血管から血を啜るというものでした。
第2幕
女声合唱が、葉で覆われた枝の棺に乗せられたパンドールを運びながら登場します。その後、アエノエが追悼の辞を述べます。そこへ、処刑を執行するためにオリンポスから連行されたプロメテが現れます。友の苦境を前にエパイストスは嘆き悲しみますが、クラトスとビアは容赦なく、プロメテを岩に縛り付けるための鎖を強固に打ちつけます。そして、プロメテの血管を切り裂いて罰の一部を執行すると、その場を立ち去ります。彼らが去った後、非現実的に復活したパンドールが再び現れ、自らの運命を嘆き悲しみます。
第3幕
海の精オセアニッドたちの合唱が、嘆き悲しむパンドールを慰めます。再びクラトスとビアが現れ、パンドールとプロメテを脅迫します。続いて、ゼウスからの贈り物である箱（いわゆるパンドラの箱）を持った神エルメスが登場します。プロメテはパンドールにその箱を受け取らないよう警告しますが、パンドールはそれを受け入れると答えます。すると、パンドールは自分の流す涙が奇跡的に癒やしの力を持つバルサムに変わっていることに気づきます。オペラは、ゼウスの慈悲を称える大合唱で幕を閉じます。
この作品には、現在商業的に入手可能な録音は存在しないとされています。
本作は、古代ギリシャの劇作家アイスキュロスによる悲劇『縛られたプロメテウス』の冒頭部分を下敷きにしています。初演は野外劇場で行われ、その規模は非常に壮大でした。約800名もの演奏者が参加し、これには2つの吹奏楽団や15台のハープ奏者が含まれていたといいます。約1万人もの観客がこの歴史的な上演を見守りました。
作曲者フォーレは本作を「抒情悲劇」として構想しましたが、その独特な形式から、一般的なオペラとして分類することは容易ではありません。大規模な声楽と管弦楽を伴いながらも、通常のオペラとは異なる側面を持っています。音楽学者の間でもその位置づけについては様々な意見があります。例えば、ある見解では「グランド・カンタータ」と呼び、舞台上で演技する登場人物が限定的であることから、純粋なオペラとは異なる性質を持つと指摘されています。また別の見解では、イタリア風オペラ、ワーグナーの楽劇、そして劇付随音楽といった異なる音楽劇の要素が複合された作品であると捉えられています。本作には、フォーレ作品の中でもワーグナーの影響が比較的明確に表れているという指摘もあります。一方で、『ニューグローヴ世界音楽大事典』では、台詞による幕間劇を含む「トラジェディ・リリック」と評されており、ナレーションを加えることでコンサート形式での上演にも適応しやすい性質を持つとされています。ただし、オリジナルの台詞は現代ではやや古めかしく感じられるため、これがコンサート上演の一般的な解決策となっているとも述べられています。
初演の大規模な編成は、その後の再演を難しくする要因の一つとなりました。そのため、1914年から1916年にかけて、作曲家ジャン・ロジェ＝デュカスによってオーケストラの規模を縮小した改訂版のスコアが作成されました。この改訂版は、後にフォーレ自身も手を加えており、1917年5月17日にはパリ・オペラ座で上演されました。しかし、この縮小版をもってしても、本作が広く普及し人気を得るには至りませんでした。
現在においても、『プロメテ』が上演される機会は極めて稀です。しかし、2011年7月にはブラジルのサンパウロで大学オペラセンターによる公演が行われた例があります。このブラジルでの上演では、オリジナルの台詞部分に代えてレチタティーボ（歌うような台詞）が用いられ、指揮と演出を担当したパウロ・マロンによる新たなオーケストレーションが施されるなど、工夫が凝らされました。
作品の筋立てについては、一部で「つぎはぎで、大半が凡庸である」といった批判も聞かれます。特に、プロメテの対抗者として重要な役割を担うはずのパンドールの導入が効果的ではない点が指摘されています。第1幕の終盤で彼女が倒れ、あたかも死んだかのように描かれた後、第2幕が彼女の遺体を運ぶ葬列で始まる構成は、劇的な流れとしては不自然に感じられる可能性があります。さらに、彼女がプロメテの対抗馬として物語に関わり続けるために、第2幕の後半で非現実的な形で復活し活躍するという展開も、整合性の問題を指摘されることがあります。
物語は全3幕で展開されます。
第1幕
前奏曲に続いて、アンドロス率いる男性たちとアエノエ率いる女性たちが、プロメテが人間に与えた火の恩恵を喜び歌う合唱から幕が上がります。プロメテは火がもたらす利点を称賛しますが、パンドールは神ゼウスに逆らうプロメテの行動に反対の意を示します。そこへ大地の女神ガイアが現れ、タイタン神族であるプロメテにその行為がもたらす結果について警告を与えます。ガイアに続いて、ゼウスによって罰するために送られた力強さの神クラトスと暴力の神ビアが登場します。彼らと共に、プロメテの友人である火と鍛冶の神エパイストスも現れます。クラトスとビアはプロメテにゼウスからの刑罰を宣告します。それは、彼を永遠に岩に鎖で縛りつけ、毎日黒い鷲が飛来してその血管から血を啜るというものでした。
第2幕
女声合唱が、葉で覆われた枝の棺に乗せられたパンドールを運びながら登場します。その後、アエノエが追悼の辞を述べます。そこへ、処刑を執行するためにオリンポスから連行されたプロメテが現れます。友の苦境を前にエパイストスは嘆き悲しみますが、クラトスとビアは容赦なく、プロメテを岩に縛り付けるための鎖を強固に打ちつけます。そして、プロメテの血管を切り裂いて罰の一部を執行すると、その場を立ち去ります。彼らが去った後、非現実的に復活したパンドールが再び現れ、自らの運命を嘆き悲しみます。
第3幕
海の精オセアニッドたちの合唱が、嘆き悲しむパンドールを慰めます。再びクラトスとビアが現れ、パンドールとプロメテを脅迫します。続いて、ゼウスからの贈り物である箱（いわゆるパンドラの箱）を持った神エルメスが登場します。プロメテはパンドールにその箱を受け取らないよう警告しますが、パンドールはそれを受け入れると答えます。すると、パンドールは自分の流す涙が奇跡的に癒やしの力を持つバルサムに変わっていることに気づきます。オペラは、ゼウスの慈悲を称える大合唱で幕を閉じます。
この作品には、現在商業的に入手可能な録音は存在しないとされています。
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