プロレトクリト

プロレトクリト：ロシア革命とプロレタリア文化運動

プロレトクリト（Proletkul't）とは、ロシア革命後のロシアにおいて、1917年から1925年まで存在した「プロレタリア文化協会」のことです。ロシア語の「プロレタリア文化（пролетарская культура）」を略した言葉であり、ブルジョワ文化からの脱却を目指し、真のプロレタリア文化の創造を掲げて活動しました。

この運動の中心には、アレクサンドル・ボグダーノフやアナトリー・ルナチャルスキーといった当時を代表する思想家、文化人がいました。さらに、アレクセイ・ガーステフ、フョードル・カリーニン、ミハイル・ゲラシモフといった人物も指導的役割を果たしました。初期のプロレトクリトは、ロシア構成主義の影響を受けた彫刻や、未来派の影響を受けた文学や音楽などを積極的に支援し、新しい芸術表現を模索しました。実験的な芸術活動が奨励され、革新的な文化創造を目指したのです。

しかし、1920年にレーニンが発表した「プロレタリア文化論」によって、状況は一変します。レーニンは、プロレトクリトが推進したような実験的な芸術を否定し、プロレタリアートが既存の文化遺産を受け継ぎ、発展させるべきだと主張しました。このレーニンの見解は、プロレトクリトの活動に大きな影響を与え、運動の方向性を大きく転換させることになります。

このレーニンの政策転換に対して、レフ・トロツキーやA.K.ヴォロンスキーは批判的な立場を取りました。彼らは、プロレタリアートがブルジョワジーの文化や科学技術を一方的に拒絶することは、歴史的にも現実的にも不可能であると主張しました。トロツキーは、ブルジョワジーの科学や技術は人類共通の財産であり、プロレタリアートがそれを無視することはできないと指摘しています。さらに、プロレタリアートが独自の芸術を発展させるには、社会主義革命後の発展段階を踏まえる必要があると論じています。つまり、プロレタリアートが社会的主体となるまでは、独自の芸術を創造することは困難であるという考えです。

プロレトクリトは、『プロレタリア文化』『炉』『創造せよ!』『未来』など、およそ20もの機関誌を発行し、積極的に思想や文化を普及させました。これらの機関誌を通して、プロレタリア文化のあり方や、新しい社会の構築について議論が展開されたと考えられます。しかし、レーニンの影響と、トロツキーらの批判を経て、プロレトクリトは次第に勢力を弱め、1925年には事実上活動を停止しました。

プロレトクリトは、ロシア革命後の混乱期において、新しい社会の文化を創造しようとした重要な運動でした。しかし、その活動はレーニンの政策や、内部の対立によって複雑な様相を呈し、最終的には成功を収めることはありませんでした。しかし、その活動は、ソ連における文化政策や芸術運動に大きな影響を与え、後の文化史においても重要な位置を占めていると言えるでしょう。プロレトクリトの歴史を理解することは、ロシア革命後の社会や文化を理解する上で不可欠な要素と言えます。

もう一度検索