プローナクス

プローナクス

ギリシア神話において、プローナクス（古希: Πρώναξ, Prōnax）はアルゴス王国の王族の系譜に連なる人物です。彼の父はタラオス、母はリューシマケーでした。タラオスはアルゴス王ビアースの子であるため、プローナクスはビアースの孫にあたります。プローナクスの兄弟には、テーバイ攻めの遠征を率いたことで名高いアドラーストス、勇敢な戦士パルテノパイオス、力の強いメーキステウス、そしてアリストマコス、そして預言者アムピアラオスの妻となるエリピューレーらがいました。また、プローナクス自身も子をもうけており、リュクールゴスとアムピテアーがその名として伝えられています。

プローナクスに関する伝承の中で特に注目すべき点は、彼の死と古代ギリシアにおける主要な競技祭の一つであるネメアー競技祭の起源を結びつける説です。テーバイ攻めの七将による遠征は、多くの英雄たちの運命を左右しましたが、プローナクスもまたこの遠征に関連して命を落としたとする話が伝わっています。そして、この遠征に参加した七将たちが、プローナクスの死を悼み、追悼の意を表すためにネメアー競技祭を創設したという説が存在します。この伝承は、プローナクスが七将たち、特に兄弟であるアドラーストスにとって重要な存在であったことを示唆しています。

しかしながら、ネメアー競技祭の起源に関する説は一つではありません。むしろ、一般的に広く知られているのは別の伝承です。この一般的な説によれば、ネメアー競技祭は、テーバイ攻めの七将が遠征の途中でネメアーに立ち寄った際に起こった悲劇に由来します。七将は水を探すために、リュクールゴス王の宮廷で乳母を務めていたヒュプシピュレーに道を尋ねました。ヒュプシピュレーは、世話を任されていたリュクールゴス王の幼い息子オペルテース（後にアルケモロス、つまり「運命の始まり」と呼ばれることになる）を草むらに寝かせたまま彼らを案内しました。しかし、その間にオペルテースは毒蛇に噛まれて死んでしまいます。これを知った預言者アムピアラオスは、これを不吉な前兆と考え、オペルテースの死を悼み、その魂を鎮めるために競技祭を創始することを提案しました。この競技祭がネメアー競技祭となったと伝えられています。

このように、ネメアー競技祭の起源については、プローナクスの死に由来するという説と、オペルテースの死に由来するという説の二つが併存しています。プローナクスに関する伝承は、オペルテースの物語ほど一般的ではないものの、古代の文献において彼の名がネメアー競技祭の創始と結びつけられて語られていることは、彼が神話上の系譜において一定の重要性を持っていたことを示しています。彼の生涯や具体的な活躍に関する詳細はあまり伝えられていませんが、アルゴス王家の血筋を引き、英雄たちの時代に生きた人物として、そしてネメアー競技祭の起源に関する異説の中で語られる存在として、その名が残されています。

プローナクスは、偉大な英雄や劇的な出来事の中心人物というわけではありませんが、ギリシア神話の複雑な系譜の中で重要な位置を占め、また有名な競技祭の起源に関する珍しい伝承に名を連ねる人物として記憶されています。彼の存在は、主要な物語の陰に隠れた多くの人物たちが、神話世界の全体像を構成する上で不可欠な役割を果たしていることを教えてくれます。

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