ヘスペリア号事件

ヘスペリア号事件

概要

ヘスペリア号事件（Hesperia Zwischenfall）とは、1879年に発生した日本とドイツ帝国の間の紛争を指します。この事件は、ドイツ船ヘスペリア号が日本の検疫規則に基づいて停船を命じられたことから始まりました。日本政府はコレラの流行を受けて、外国船に対して検疫を厳格に適用しようとしていたのです。

コレラの影響

日本では幕末以降、コレラ蔓延が頻繁に現れ、国民に多大な影響を及ぼしました。当時、コレラは「コロリ」と呼ばれ、その恐ろしさから深刻な不安を抱かれていました。西南戦争後の1877年には大流行があり、特に長崎から関西、関東にかけて広がり、東京でも病院の急造が行われるほどでした。このような状況の中で、明治政府は1878年に検疫規則を制定しましたが、国際間の合意を得ることは容易ではありませんでした。

事件の経緯

1879年の初夏、コレラが清国から九州へ再び伝播し、7月には西日本で流行が拡大しました。政府は前年の規則を改訂し、検疫停船仮規則を新たに策定しました。しかし、ドイツ、イギリス、フランスの各国はその不備を指摘し、反発しました。7月11日、ヘスペリア号が神戸から東京湾に向かう際、検疫場への回航が指示されました。しかし、ドイツ公使は独自の検査を経て速やかな解放を求めました。

7月13日、ドイツ側は日本の検疫規則に従わない旨を通知し、日本政府は最初の主張を曲げて譲歩し始めました。しかし、ドイツ公使は一方的に出港を通告し、ヘスペリア号は7月15日に横浜に強行入港しました。この行動は、外国側の日本に対する勇敢な挑戦と見なされ、日本政府は強い抗議をしました。

外交的インパクト

当時の外交関係は緊迫し、多くの日本国民がこの事件に反響しました。外務卿の寺島宗則は、日本の行政権が重大に侵害されたとし、ドイツに抗議しました。この事件により、日本における外国の領事裁判権の撤廃が大きな課題となり、多くの知識人や政治家が声を上げるようになりました。

この年、関東地方でも再びコレラの大流行が起こり、全国での患者数は16万8,000人、死者は10万400人に達しました。医療機関の人手不足で、多くの感染者が十分な看護を受けられず、悲惨な状況が続きました。このコレラの流行は、検疫を無視することが自国民の安全にも影響を及ぼすことを示しました。

結果と後の展開

ヘスペリア号事件は、国際的な理解を深めるきっかけとなり、近代日本の法権の獲得に向けた動きへとつながりました。寺島に続き井上馨、大隈重信、青木周蔵などの外交官が自国の地位向上を目指し、不平等条約の改正を訴えました。最終的に、1899年に条約改正が行われ、日本は海港検疫権を取得します。

また、コレラの流行を契機に、日本のインフラが整備され、近代水道事業や医療機関の発展が促されました。新たな医療機関が民間により設立され、医療サービスが国民の暮らしに浸透していくことになりました。これら全ての変化は、日本が近代国家として国際社会に向き合う基盤を整えるための重要なステップでありました。

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