ヘテロシグマ・アカシオ

ヘテロシグマ・アカシオ（Heterosigma akashiwo）

ヘテロシグマ・アカシオは、学名を _Heterosigma akashiwo_ といい、単細胞性の藻類であるラフィド藻類に分類される微細な生物です。このプランクトンは、その名前が示すように、日本の沿岸海域においてたびたび発生する赤潮現象の主要な原因生物として広く知られています。

発見の背景

この微細藻類が発見された背景には、日本の高度経済成長期における環境変化がありました。1960年代に入り、産業が急速に発展するにつれて、工場からの工業排水や都市からの生活排水が大量に海へと流れ込むようになりました。特に、内湾や閉鎖性の高い瀬戸内海のような内海では、これらの排水に含まれる栄養塩類によって海水が富栄養化し、プランクトンが異常に増殖しやすい環境が生まれました。結果として、これらの海域では大規模な赤潮が頻繁に発生するようになったのです。

このような状況を受けて、赤潮の原因となるプランクトンの特定と研究が精力的に進められました。その研究の中で、瀬戸内海の赤潮現象を詳しく調べていた研究者である羽田良禾（はだ りょうか）氏によって、1968年に本種が新たに発見されました。学名の種小名である _akashiwo_ は、日本語の「あかしお」（赤潮）に由来しており、ローマ字表記をそのまま読むと「アカシヲ」となりますが、一般的には「アカシオ」と表記されています。

形と特徴

ヘテロシグマ・アカシオの個々の細胞は非常に小さく、大きさはおよそ8マイクロメートルから25マイクロメートルほどの楕円形の円盤状をしています。細胞の色は通常、黄褐色です。しかし、海水中でこれらの細胞が大量に増殖して密集すると、細胞の色素によって海面が褐色から赤色へと大きく変色し、これが肉眼でも確認できる「赤潮」として観測されます。

この藻類は、水中を活発に移動する能力を持っています。細胞体からは2本の鞭毛（べんもう）と呼ばれる細長い突起が伸びており、これを波打たせることによって水中を自由に泳ぎ回ります。細胞内には、光合成を行うための葉緑体を多数（10個から30個程度）持っており、太陽光を利用してエネルギーを作り出す独立栄養生物です。

生態と生活環

ヘテロシグマ・アカシオは、環境条件が悪化したり、適切な水温や栄養状態が失われたりすると、休眠状態に入ることが知られています。この休眠状態の細胞は「シスト」と呼ばれ、海底などに沈んで生息環境が再び好転するまで耐えると考えられています。しかし、このシストがどのように形成され、休眠期間を経て再び活発な遊泳細胞となるのかといった、ヘテロシグマ・アカシオの詳しい生活環の全貌については、まだ十分に解明されていない点が多く残されています。

これらの生態的な特徴と、富栄養化された環境下での急激な増殖能力が組み合わさることで、ヘテロシグマ・アカシオは日本の沿岸域における赤潮問題において重要な位置を占めるプランクトンとなっています。

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