ヘテロ接合型

ヘテロ接合型（Heterozygous）

概念の定義

遺伝学におけるヘテロ接合型（英語: heterozygous）とは、二倍体生物が持つ特定の遺伝子座において、二つの対立遺伝子が互いに異なる状態にあること、あるいはそのような遺伝子の組み合わせを持つ個体を指す用語です。

二倍体生物は、一般的に親から一つずつ受け継いだ二組の染色体を持っており、それぞれの染色体セットには同じ位置に同じ遺伝子が存在します。この遺伝子には、微妙に異なる性質を持つ複数のバリエーションが存在することがあり、これらを対立遺伝子と呼びます。

特定の遺伝子座に着目したとき、個体が持つ二つの対立遺伝子が「A」と「a」のように異なっている場合、この個体は「ヘテロ接合型である」と言われます。遺伝子型としては「Aa」のように表記されます。

ホモ接合型との対比

ヘテロ接合型と対比される概念にホモ接合型（homozygous）があります。ホモ接合型とは、特定の遺伝子座において、二つの対立遺伝子が同一である状態、あるいはそのような遺伝子の組み合わせを持つ個体を指します。

対立遺伝子が「A」と「a」の二種類である場合、ホモ接合型には遺伝子型「AA」と遺伝子型「aa」の二種類があります。これらはそれぞれ、特定の対立遺伝子を二つずつ持っている状態を示します。ホモ接合型の個体は「ホモ接合である」と言われます。

ヘテロ接合型は異なる対立遺伝子の組み合わせ（例: Aa）であり、ホモ接合型は同一の対立遺伝子の組み合わせ（例: AA, aa）であるという点が、両者を区別する最も基本的な特徴です。

遺伝と表現型：メンデルの優性の法則

ヘテロ接合型の個体における遺伝形質の発現は、遺伝学の基本法則であるグレゴール・メンデルが発見した優性の法則（Law of Dominance）によって説明されることがよくあります。

優性の法則によれば、二つの異なる対立遺伝子を持つヘテロ接合体においては、通常、そのうち一方の対立遺伝子によって決定される形質だけが、生物の外見や性質として観察される表現型として現れます。

このとき、表現型として現れる方の形質を優性形質（あるいは顕性形質）、遺伝子としては保持しているものの表現型に現れない方の形質を劣性形質（あるいは潜性形質）と呼びます。

例えば、ある植物の花の色を決定する遺伝子座があり、これには赤い花を咲かせる対立遺伝子（仮にRとします）と白い花を咲かせる対立遺伝子（rとします）が存在するとします。ここで、赤い花を咲かせる対立遺伝子Rが、白い花を咲かせる対立遺伝子rに対して優性であるとします。この場合、ホモ接合型の遺伝子型RRの個体は赤い花を咲かせます。同様に、ホモ接合型の遺伝子型rrの個体は白い花を咲かせます。一方、ヘテロ接合型である遺伝子型Rrの個体は、優性の法則に従い、表現型としては優性である赤い花を咲かせます。白い花を咲かせる劣性形質は、このヘテロ接合型の個体では遺伝子として保持されているものの、表現型には現れません。劣性形質である白い花が現れるのは、劣性の対立遺伝子を二つ持つホモ接合体（rr）の場合だけです。

したがって、ヘテロ接合型であるかどうかを知ることは、個体がどのような遺伝子型を持っているか、そしてそれがどのような表現型として現れる可能性を持つかを予測する上で非常に重要になります。

接合性という概念

ヘテロ接合型やホモ接合型という分類は、接合性（Zygosity）という、個体が特定の遺伝子座においてどのような対立遺伝子の組み合わせを持つかを示す遺伝学の基本的な概念の一部をなしています。接合性は、個々の遺伝子の振る舞いや、それが生物全体の形質にどう影響するかを理解する上で非常に重要です。

用語の由来

これらの重要な遺伝学用語、すなわちヘテロ接合型やホモ接合型といった概念は、20世紀初頭にイギリスの著名な遺伝学者であるウィリアム・ベイトソン（William Bateson, 1861-1926）によって提唱されました。彼はグレゴール・メンデルの遺伝法則を再発見し、その普遍性を広く認識させる上で中心的な役割を果たしました。ベイトソンは、現代遺伝学の基礎を築き、多くの遺伝学的な用語を命名したことでも知られています。

ヘテロ接合型という概念は、遺伝子の多様性とその発現パターンを理解するための礎であり、遺伝学研究や育種、遺伝性疾患の解析など、様々な分野で不可欠な知識となっています。

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