表現型

表現型（Phenotype）とは

表現型（ひょうげんがた、英: phenotype）とは、生物が持つ観察可能な特徴や形質のことを指します。これは、生物の形態、生理機能、行動など、多岐にわたる要素を含みます。ただし、後天的に獲得した形質は含みません。

表現型を決定する要因

表現型は、主に以下の2つの要因によって決定されます。

遺伝子型（Genotype）: 生物が持つ遺伝情報
環境要因: 生物が置かれている環境

これらの要因が相互に影響し合うことで、表現型が形成されます。同じ遺伝子型を持つ生物でも、異なる環境下で生育すると異なる表現型を示すことがあります。

遺伝子型との違い

遺伝子型は、生物が持つ遺伝情報のことであり、表現型は、その遺伝情報が実際に現れた形質のことです。例えば、ある遺伝子を持っていても、それが発現しなければ表現型には現れません。

ウィルヘルム・ヨハンセンは、遺伝とその遺伝が生み出すものとの違いを明らかにするために、1911年に「遺伝子型-表現型の区別」を提案しました。

多型

同じ種の中でも、複数の異なる表現型が存在する場合があります。これを多型（polymorphism）と呼びます。ラブラドール・レトリーバーの毛色などがその例です。

行動表現型

行動も観察可能な特性であるため、表現型の一つとして捉えることができます。認知、性格、行動パターンなどが含まれます。

表現型の変化

表現型の変化は、進化の基本的な前提条件です。自然淘汰は、表現型の貢献を通じて間接的に集団の遺伝的構造に影響を与えます。表現型の変異がなければ、自然淘汰による進化は起こりません。

表現型の可塑性

遺伝子型は、表現型の変更と表現型の発現に多くの柔軟性を持っていることがよくあります。多くの生物では、これらの表現型は、環境条件の変化の下で大きく異なっています。これを表現型の可塑性といいます。

拡張された表現型

リチャード・ドーキンスは、遺伝子が生物の周囲に及ぼす影響を「拡張された表現型」と表現しました。例えば、ビーバーがダムを建設する行動は、ビーバーの遺伝子が環境に影響を与えていると考えることができます。

フェノームとフェノミクス

表現型（phenotype）とは、生物が示す観察可能な特徴の集合体であるが、フェノーム（phenome）という言葉は形質の集合体を指す場合もあり、そのような集合体を同時に研究することをフェノミクス（phenomics）と呼びます。

フェノミクスは、どのようなゲノム変異体が表現型に影響を与えるのかを明らかにすることができ、健康、疾病、進化的適応度などを理解するため、重要な研究分野です。また、農業や個別化医療への応用も期待されています。

まとめ

表現型は、生物を理解する上で重要な概念です。遺伝子型と環境要因の相互作用によって生み出される多様な表現型を理解することで、生物の進化や適応のメカニズムをより深く知ることができます。

参考文献

八杉龍一・小関治男・古谷雅樹・日高敏隆 『岩波生物学辞典 第4版』 岩波書店、1996年.
リチャード・ドーキンス 著、日高 敏隆 訳『延長された表現型: 自然淘汰の単位としての遺伝子』紀伊國屋書店、1987年。ISBN 9784314004855

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