ヘモシアニン

ヘモシアニン (Hemocyanin)

ヘモシアニン（Hemocyanin, Hc）は、動物が酸素を体内に運搬するために用いる主要な呼吸色素の一つです。この色素は、私たちの身近な生物にも広く存在しており、例えばエビやカニといった節足動物、そしてイカやタコ、一部の貝類などの軟体動物に見られます。ただし、全ての軟体動物や節足動物がヘモシアニンを持つわけではありません。たとえば、軟体動物の仲間である赤貝や、環形動物に分類されるゴカイなどは、代わりにヘモグロビンに類似した鉄を含む呼吸色素「エリトロクルオリン」を使用しており、その血液は赤色をしています。

ヘモシアニンの大きな特徴の一つは、その色です。酸素と結合していない状態では無色透明ですが、酸素分子を取り込むと鮮やかな青色に変化します。この独特な青色は、ヘモシアニンの分子構造に含まれる銅イオンが酸素と反応することによって現れます。ヘモシアニンという名称に含まれる「シアン (cyan)」という言葉は、この銅に由来する青色を指しており、毒物として知られるシアン化物とは関係ありません。この色の変化は、光の吸収スペクトルによって説明できます。分子内の銅原子が、主にオレンジ色の光（波長約600ナノメートル）を吸収するため、その補色である青色が私たちの目に届くのです。

ヘモシアニンの分子構造は非常に特徴的です。酸素を結合する機能を持つ部分は、2つの銅原子から構成されています。それぞれの銅原子は、タンパク質を構成するアミノ酸であるヒスチジン残基の側鎖にあるイミダゾール環の窒素原子3つに囲まれた状態で配置されています。酸素分子（O₂）は、これら2つの銅原子の間に挟まれる形で結合します。この二つの銅原子と結合した酸素が、ヘモシアニンが青く見える原因となります。

さらに、ヘモシアニンは単一の分子として機能するのではなく、この酸素結合部位を持つサブユニットが多数集合して、巨大な多量体を形成します。これらのサブユニットは通常、円柱状に整然と配列し、その分子量は数百万にも達することがあります。このような巨大な構造をとることで、効率的に酸素を結合し、運搬することが可能になります。

機能面では、ヘモシアニンはヘモグロビン、クロロクルオリン、ヘモエリスリンなどと同様に、生体内で酸素を組織に運ぶという重要な役割を担っています。人間の血液中に含まれるヘモグロビンが赤血球という特定の細胞内に収められているのとは対照的に、ヘモシアニンは動物の体液である血リンパ液の中に溶け込んだ状態で存在しています。ただし、酸素を結合する能力という点では、鉄を含むポルフィリン環を持つヘモグロビンと比較すると、ヘモシアニンはやや劣るとされています。

このように、ヘモシアニンは特定の動物群において、銅を利用して酸素を運搬する独特なシステムを構築しており、生物の多様な適応の一例として興味深い存在です。

もう一度検索