ヘラクレア・ポンティカ

ヘラクレア・ポンティカ：黒海沿岸の古代都市の興亡

ヘラクレア・ポンティカは、現在のトルコ共和国ゾングルダク県カラデニズ・エレーリに位置した、小アジアのビテュニア地方にあった古代都市です。リュクス川の河口に位置し、その歴史は紀元前6世紀に遡ります。

メガラの植民都市として

紀元前560年 - 558年頃、古代ギリシアの都市国家メガラによって建設されたヘラクレア・ポンティカは、ギリシア神話の英雄ヘラクレスにちなんで名付けられました。ギリシア人が信じるところでは、隣接するArcherusian岬（現在のババ岬）の洞窟が、地下世界への入り口とされていました。

入植者たちは先住民であるマリアンデュニア人を支配下に置きましたが、彼らには故郷から奴隷として売り払われることはないという条件が認められました。この点で、マリアンデュニア人はヘロットのような隷属民に近い存在だったと言えるでしょう。

繁栄と勢力拡大

ヘラクレア・ポンティカは、肥沃な土地と天然の良港に恵まれ、海産物も豊富であったため、急速に繁栄しました。その勢力範囲は海岸沿いに東へと拡大し、ついには黒海沿岸にCytorus（現在のKidros）、カラティス（現在のマンガリア）、ケルソネソス（現在のセヴァストポリ）といった植民地を建設するまでに至りました。

衰退と破壊

しかし、ヘラクレア・ポンティカの繁栄は長くは続きませんでした。ガラティア人やビテュニア人による攻撃を受け、その基盤は大きく揺さぶられました。そして、ミトリダテス戦争によって都市は完全に破壊され、その繁栄は終焉を迎えました。

ヘラクレイデス・ポンティカスとメムノン

ヘラクレア・ポンティカは、哲学者ヘラクレイデス・ポンティカスの生誕地としても知られています。彼はプラトンのアカデメイアに属し、天文学や倫理学など幅広い分野で活躍しました。

また、紀元1世紀頃に活躍した歴史家ヘラクレアのメムノンは、『ヘラクレア・ポンティカの歴史』を少なくとも16巻にわたって記述しました。メムノンの著作は現存していませんが、フォティオスの『ビブリオテカ』に9巻から16巻の簡潔な解説が残されており、当時の様子を知る手がかりとなっています。メムノンの著書には、僭主クレアルカスの支配からユリウス・カエサルより後の時代までの出来事が記されており、ケルト人のアジアへの侵入に関する記述も含まれています。

現在

かつて繁栄したヘラクレア・ポンティカの面影は、現在のカラデニズ・エレーリの遺跡にわずかに残るのみです。しかし、その歴史は古代の文献や考古学的な発見を通じて、現代に語り継がれています。

ヘラクレア・ポンティカは、ギリシア植民都市としての繁栄、異民族との衝突、そして戦乱による衰退という、古代都市の典型的な運命を辿ったと言えるでしょう。その歴史は、古代世界の複雑な力関係と、都市の盛衰を物語る貴重な証言となっています。

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