ヘラクレスの涙

ロッド・スチュワート『ヘラクレスの涙』：時代を超越する音楽への賛歌

ロッド・スチュワートが2021年に発表した31作目のスタジオ・アルバム『ヘラクレスの涙』（原題：The Tears of Hercules）は、彼の音楽的探求心と、長きにわたるキャリアで培われた円熟味が結実した作品です。本作は、カバー曲とオリジナル曲が織り交ぜられ、彼のルーツへの回帰と新たな挑戦が共存しています。

多彩な楽曲構成

アルバムには、ソウル・ブラザーズ・シックスの「サム・カインド・オブ・ワンダフル」や、マーク・ジョーダンのタイトル曲「ヘラクレスの涙」といったカバー曲が収録されています。これらの楽曲は、スチュワート自身の解釈を通して新たな命を吹き込まれ、原曲の魅力を損なうことなく、彼の個性が際立っています。

オリジナル曲も充実しており、妻のペニー・ランカスターに捧げられた「アイ・キャント・イマジン」、父親への感謝を込めた「タッチライン」など、パーソナルなメッセージが込められた楽曲が並びます。特に注目すべきは、マーク・ボランへのトリビュートである「ボーン・トゥ・ブギー（トリビュート・トゥ・マーク・ボラン）」です。この曲は、T・レックスの代表曲のタイトルが歌詞に散りばめられ、ボランへの敬愛の念が溢れています。

音楽的評価

『ヘラクレスの涙』は、全英アルバムチャートで最高5位を記録し、7週にわたりトップ100にランクインするなど、商業的な成功を収めました。音楽評論家からも概ね好意的な評価を受けており、Stephen Thomas Erlewineはオールミュージックにおいて「時に困惑させられ、時に馬鹿げており、時に甘美で、そして時に愛らしい」と評し、アルバムの多様性と魅力を指摘しています。

参加ミュージシャン

本作には、ケヴィン・サヴィガー（キーボード、プログラミング）、エマーソン・スウィンフォード（ギター、ベース）、マイク・セヴァース（ギター）、デヴィッド・パーマー（ドラムス）など、スチュワートを支えるベテランミュージシャンたちが参加しています。また、ジュリア・ソーントン（パーカッション）、ジャンナ・ジャコビー（ヴァイオリン）、ジミー・ロバーツ（サクソフォーン）といったゲストミュージシャンの参加も、アルバムに彩りを添えています。さらに、ホリー・ブルーワー、アマンダ・ミラー、ジェマ・ミューズら、多数のバッキング・ボーカリストが参加し、楽曲に厚みと奥行きを与えています。

収録曲

1. ワン・モア・タイム - One More Time
2. ガブリエラ - Gabriella
3. オール・マイ・デイズ - All My Days
4. サム・カインド・オブ・ワンダフル - Some Kind of Wonderful
5. ボーン・トゥ・ブギー（トリビュート・トゥ・マーク・ボラン） - Born to Boogie (A Tribute to Marc Bolan)
6. クークーアラマバマ - Kookooaramabama
7. アイ・キャント・イマジン - I Can't Imagine
8. ヘラクレスの涙 - The Tears of Hercules
9. ホールド・オン - Hold On
10. プレシャス・メモリーズ - Precious Memories
11. ジーズ・アー・マイ・ピープル - These Are My People
12. タッチライン - Touchline
13. アップ・オール・ナイト - Up All Night（日本盤ボーナス・トラック）

『ヘラクレスの涙』は、ロッド・スチュワートの音楽的才能と、彼が長年にわたり培ってきた人間性が凝縮された作品と言えるでしょう。彼のファンはもちろん、ロック、ポップス、ソウルミュージックを愛するすべての人々にとって、聴き応えのあるアルバムです。

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