ヘルドライバー

『ヘルドライバー』は、日本の映像作家、西村喜廣がメガホンを取り、2011年に公開された劇場用映画です。単独監督作としては、『東京残酷警察』に続く2作目にあたり、その過激な描写からR15+指定を受けています。

この作品は、これまでのゾンビ映画とは一線を画す独自の視点を取り入れています。日本には土葬の文化が根付いていないことから、死者が蘇るという一般的なゾンビの概念ではなく、宇宙から飛来した謎の物質が感染源となり、生きたままの人々が変容していくという設定が採用されました。感染者は額にへた状の角を生やし、生者を襲う恐ろしい存在となります。

物語は、北海道・夕張の荒廃した風景から始まります。主人公の少女キカは、殺人犯である母リッカから逃れ、足の不自由な父と静かに暮らしていました。しかし、リッカと叔父ヤスシに潜伏先を見つけられ、凄惨なリンチに遭います。父の決死の行動で一時脱出したキカですが、追いつかれ、さらなる暴力を受けようとしたその瞬間、空から飛来した物体がリッカを貫通します。リッカは心臓を失いますが、驚異的な生命力でキカの心臓を奪い取り、自らの体に取り込みます。同時に、飛来物から発生した謎の霧状物質に体が覆われ、異形の存在へと変貌していきます。一方、キカはどこか遠くへ飛ばされてしまいます。

リッカの体から放出されたドス黒い霧が街中に蔓延し、それを吸い込んだ人々は次々と感染者（通称：ゾンビ）へと変貌していきます。世界が未曽有の危機に瀕する中、奇跡的に生き延びたキカは、ある謎の組織によってゾンビ退治用の改造人間として蘇生させられます。奪われた心臓の代わりにエンジンが装着され、彼女は人間兵器として戦場に送り出されることになるのです。

本作には、西村監督自身が編集を手掛けた複数のバージョンが存在します。劇場公開されたディレクターズカット版に加え、海外展開を意識したインターナショナル版があります。特にインターナショナル版では、ハイパーポリスを演じた亜紗美の出演シーンが大幅にカットされている点が大きな違いとして挙げられます（エンディングロールには名前が残っています）。

また、本作のソフト化に際して、低予算ながら3本のユニークなスピンオフ短編が制作されました。これら3作の合計予算はわずか50万円、つまり各作品の制作費は15万円という極めて限られた状況で生み出されています。当初は各10分の予定でしたが、結果的には3本中2本が15分作品として完成しています。具体的には、高橋ヨシキ監督の『脱出！ 〜Bailout〜』、太田博監督の『キャッチミーイフユーキャン！』、塩崎遵監督の『HellDriver ドカタ』が制作されています。

映画本編の撮影においても、過酷な状況に見舞われました。リハーサル中に撮影車両が横転し大破するという事故が発生しましたが、予備の車両がなかったため、応急処置を施して撮影を続行せざるを得ませんでした。このため、作中には事故で失われたフロントガラスが存在しないにも関わらず、ヤスシ役の岸健太朗がガラスを叩くようなパントマイム演技で対応するシーンが見られます。こうしたエピソードからも、本作が困難な状況の中で情熱を持って制作されたことがうかがえます。

作品には、原裕美子、しいなえいひ、柳憂怜、波岡一喜ら個性的な俳優陣が出演し、強烈なキャラクターを演じています。スタッフには、脚本に渚大地、音楽に中川孝、撮影にShu G. 百瀬などが名を連ねるほか、特殊造型・特殊メイクを西村監督率いる西村映造や自由廊が手掛けており、そのグロテスクで創造的なクリーチャーデザインが作品世界を彩っています。複数のアーティストによる挿入歌が使用され、独特の雰囲気を盛り上げています。

『ヘルドライバー』は、その常識破りの設定と容赦ないゴア描写、そしてどこか漂う哀愁やユーモアが混在する独自のトーンで、西村喜廣監督の世界観を色濃く反映した一作と言えるでしょう。

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