ヘルマン・クレバース

ヘルマン・クレッバースは、20世紀から21世紀初頭にかけて活躍したオランダを代表するヴァイオリン奏者です。1923年6月18日にオーファーアイセル州ヘンゲローで生を受け、エーデの地で少年時代を過ごしました。

10歳になった頃から、本格的にヴァイオリンの手ほどきを受けるようになります。彼の最初の師はマルセル・カンデ・ハースで、高名なオスカー・バックの門下生でした。クレッバースはカンデ・ハースのもとで5年間学び、この時期にその非凡な才能が広く認められるようになります。才能をさらに開花させるため、彼は音楽の中心地アムステルダムへと移り、アムステルダム音楽院で専門的な研鑽を積みました。音楽院では、後に共にコンサートマスターを務めることになるテオ・オロフと出会い、深い友情を育みました。

プロのヴァイオリニストとしての活動は、1937年、わずか14歳の時に始まります。北オランダ・フィルハーモニー管弦楽団とヴィエニャフスキの協奏曲を共演し、鮮烈なデビューを飾りました。その後も順調にキャリアを重ね、1943年には19歳で、当時アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団として世界的な名声を確立しつつあったロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とソリストとして共演する機会を得ます。これは若きクレッバースにとって、その後のキャリアを決定づける重要な節目となりました。

彼のキャリアにおけるもう一つの重要な柱は、オーケストラのコンサートマスターとしての活動です。1951年には、親友であるテオ・オロフと共に、ハーグ・レジデンティ管弦楽団のコンサートマスターに就任し、双頭体制で楽団のサウンドをリードしました。そして1962年には、かつてソリストとして舞台に立った名門、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターに迎えられます。世界のトップオーケストラの一つである同楽団のコンサートマスターとして、彼はその卓越した演奏技術、音楽性、そしてリーダーシップを発揮し、長年にわたり楽団の重要な支柱として貢献しました。

クレッバースは演奏活動と並行して、後進の指導にも多大な情熱を注ぎました。アムステルダム国立高等音楽院（旧王立スウェーリンク音楽院）のヴァイオリン科教授として教鞭を執り、数多くの若い音楽家を育成。彼のクラスからは、フランク・ペーター・ツィンマーマン、エミー・ヴェルヘイ、天満敦子、玉井菜採、梅津美葉、山田晃子など、その後に世界的な舞台で活躍する優れたヴァイオリニストが多数巣立っていきました。教育者としての彼の功績は計り知れず、オランダのみならず世界のヴァイオリン界に大きな足跡を残しました。

長きにわたりヴァイオリン芸術の向上と普及に貢献したヘルマン・クレッバースは、2018年5月2日、ティルブルフにて94年の生涯を閉じました。彼の遺した音楽と、彼が育てた多くの才能は、これからもヴァイオリン界で生き続けていくでしょう。

もう一度検索