ヘルマン・フォン・ザルツァ

ヘルマン・フォン・ザルツァ：13世紀を代表する指導者

ヘルマン・フォン・ザルツァ(1165年 - 1239年)は、ドイツ騎士団第4代総長として、1209年から1239年までその地位にありました。彼は、単なる軍事指導者ではなく、神聖ローマ帝国とローマ教皇庁、双方との外交を巧みに操り、騎士修道会の東方進出を決定的に成功させた人物として知られています。その手腕から「13世紀のビスマルク」「中世最大のドイツ人政治家」と称賛されるほど、後世に大きな影響を与えました。

早期の人生とドイツ騎士団への加入

ザルツァは、テューリンゲン方伯に仕えるミニステリアーレ（従属騎士）の家系に生まれ、ランゲンザルツァで育ったと推測されます。若き日には、テューリンゲン方伯ルートヴィヒ3世に従い、第三回十字軍(1189-1191年)のアッコン包囲戦に参加しています。この経験が、後の彼の活動に大きく影響を与えたと考えられます。

1197年には、神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世の十字軍に同行し、エルサレム王アモーリー2世の戴冠式にも立ち会いました。しかし、ハインリヒ6世の死によって十字軍は中断。ドイツ騎士団の前身である野戦病院は存続の危機に瀕しますが、1198年、ザルツァは新たな役割を担うドイツ騎士団に入団します。入団後、彼は地中海方面で活動し、騎士団の勢力範囲を拡大することに貢献しました。

聖地での活躍と外交手腕

1215年まで、ザルツァはパレスチナとキプロス島で騎士団の所領を視察。同年、ローマで開催された第4ラテラン公会議に出席し、翌年には神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世と初めて謁見します。以降、フリードリヒ2世の側近、あるいは使者として活躍し、皇帝との緊密な関係を築きました。

彼は皇帝と教皇庁との間で巧みな外交を展開し、両者の信頼を得ることに成功します。特に、ホノリウス3世はザルツァの能力を高く評価し、ドイツ騎士団に聖ヨハネ騎士団やテンプル騎士団と同等の地位を与えるほどでした。

ザルツァは1219年'>[第5回十字軍]のエジプト・ダミエッタ攻撃にも参加。さらに、十字軍への参加を躊躇するフリードリヒ2世を説得するため、フリードリヒ2世とジャン・ド・ブリエンヌの娘ヨランドの結婚にも関与しました。教皇ホノリウス3世とフリードリヒ2世の対立においても、仲介役として活躍し、1227年のフリードリヒ2世の十字軍参加の誓約を取り付けました。

第6回十字軍にも同行したザルツァは、フリードリヒ2世が病気になった際には、教皇からの破門を覚悟の上で十字軍の中断を勧めるなど、その忠誠心と判断力は計り知れませんでした。1228年にフリードリヒ2世が破門された後も、破門の取り消しに奔走し、1230年のチャペラノの和議による両者の和解にも貢献します。この和解の食事会には、唯一の立会人としてザルツァが同席しました。

ハンガリー進出の挫折とプロイセン征服

1211年、ザルツァ率いるドイツ騎士団は、ハンガリー王アンドラーシュ2世の要請により、トランシルヴァニアのプルツェンラントに移り、クマン人からの防衛にあたりました。しかし、騎士団の自立化が進むにつれ、ハンガリー国内の反発が強まり、1225年にはプルツェンラントからの撤退を余儀なくされます。

この失敗を糧に、ザルツァはプロイセンへの進出を本格化させます。マゾフシェ公コンラト1世の要請を受け、プロイセンの異教徒に対する防衛という名目で、彼はプロイセン征服に乗り出しました。

教皇とフリードリヒ2世からの支援を得て、ザルツァは騎士団の軍事力を増強し、プロイセン征服を推進します。1230年には、プロイセン征服の最高責任者としてヘルマン・バルクをラントマイスターに任命し、自らもクルムラントでの活動に尽力しました。

1233年にはクルム要塞の特権を発布、1234年には教皇グレゴリウス9世からクルムの支配とプロイセン征服の承認を得るなど、プロイセン征服の基盤を固めました。

晩年と死

1237年には、リヴォニア帯剣騎士団を併合し、勢力を拡大。しかし、1238年初めに病に倒れ、イタリアのサレルノの医科大学で治療を受けましたが、1239年3月20日に没しました。彼の死は、神聖ローマ帝国と教皇庁の権力統合の可能性を失わせる結果となりました。

ヘルマン・フォン・ザルツァは、卓越した外交手腕と軍事力、そして先見の明によって、ドイツ騎士団を中世ヨーロッパの主要勢力へと成長させた、まさに13世紀を代表する歴史上の人物と言えるでしょう。彼の功績は、現代においても高く評価され続けています。

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