ヘンク・バーディングス

ヘンク・バーディングス（Henk Badings）は、1907年1月17日に現在のインドネシア、ジャワ島のバンドンで生を受け、1987年6月26日にその生涯を閉じたオランダのクラシック音楽作曲家です。彼はその異色の経歴と、生涯を通じて生み出された膨大な数の作品、そして探求心に満ちた音楽スタイルで知られています。

バーディングスの初期キャリアは、音楽家とは全く異なる分野にありました。彼はデルフト大学で学び、1937年まで鉱山技師および古生物学者として研究職に就いていました。しかし、その後に彼は専門分野を音楽へと転向し、人生の残りの時間を作曲に捧げることを決意しました。このようなバックグラウンドは、彼の音楽に対するアプローチにも影響を与えたのかもしれません。

音楽教育に関しては、バーディングスは正規の音楽院で学ぶのではなく、ほぼ独学で作曲技法を習得しました。当時のオランダ作曲界を代表する存在であったウィレム・ペイペルから助言を受ける機会はあったものの、バーディングス自身の音楽に対する考え方や方向性は、ペイペペルのそれとは大きく異なっており、独自の道を切り開きました。

彼の作曲家としての才能が広く認められる最初の大きな機会は、1930年に訪れました。この年、彼のチェロ協奏曲第1番が、オランダを代表するオーケストラであるアムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によって初演され、聴衆や批評家から高い評価を受けました。この成功により、彼は作曲家としての地位を確固たるものにしました。彼の作品は、当時の著名な指揮者たち、例えばエドゥアルト・ファン・ベイヌムやウィレム・メンゲルベルクといった巨匠たちにも積極的に取り上げられ、その普及に貢献しました。

作曲活動と並行して、バーディングスは教育者としても活躍しました。ドイツのシュトゥットガルト音楽大学や母国オランダのユトレヒト大学をはじめとする国内外の様々な教育機関で教鞭を執り、後進の指導にあたりました。

しかし、彼のキャリアは順風満帆なだけではありませんでした。第二次世界大戦後、オランダがナチス・ドイツの占領下にあった時期の活動に関連して、彼は占領政策への協力者であったとの嫌疑をかけられました。この告発により、彼は一時的に音楽活動の停止を余儀なくされるという困難な時期を経験しました。幸いにも、この活動禁止は短期間に終わり、1947年には再び作曲家、教育者として活動を再開することができました。

バーディングスの音楽スタイルは、その多様性と革新性に特徴があります。彼は特に、従来の12平均律にとらわれない音階、例えば31音音階のような特異な音階や、大胆で独創的な和声を頻繁に作品に取り入れました。これらの要素は、彼の音楽に独特の響きと色彩を与えています。彼は非常に多作な作曲家であり、生涯を通じて1,000曲を超える膨大な数の作品を残しました。管弦楽曲、室内楽、声楽曲、オペラなど幅広いジャンルを手がけましたが、中でも吹奏楽の分野においても数多くの重要な作品を生み出し、この分野の発展に大きく貢献しました。その作品群は、彼の尽きることのない創作意欲と音楽的探求心の証と言えるでしょう。

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