ヘンリー・アイリング

ヘンリー・アイリング：理論化学の先駆者

ヘンリー・アイリング（Henry D. Eyring、1901年2月20日 - 1981年12月26日）は、アメリカ合衆国の著名な理論化学者であり、特に量子化学や遷移状態理論、反応速度論の研究で知られています。彼の著書『絶対反応速度論』は、化学反応のメカニズムを解明するための重要な文献として広く引き合いに出されます。特に、複雑な化学反応の基盤となる素反応についての理論的な研究において、彼は顕著な貢献をしました。

生い立ちと教育

アイリングは末日聖徒イエス・キリスト教会の信者の家庭で生まれ、メキシコのチワワ州北部、コロニア・フアレスにある牧場で幼少期を過ごしました。しかし、1910年に始まったメキシコ革命の影響で家族は追放され、テキサス州エルパソに移住することになります。おそらくこの出来事が、彼の性格や価値観に影響を与えたことでしょう。

その後、アリゾナ州ピマに移り、そこで高校教育を受ける中で数学と科学の才能を開花させました。1919年には州から授与された奨学金を得てアリゾナ大学に入学し、鉱山学や冶金学、化学を学びました。化学の研究に取り組むためにカリフォルニア大学バークレー校に進学し、1923年に鉱山工学の学士号を取得、さらに1927年には同大学院から博士号（Ph.D.）を取得しました。在学中の1924年から翌年にかけてアリゾナ大学で化学を教えた後、1930年にはバークレー校で教壇に立ちました。

学術的業績

アイリングは1931年にプリンストン大学に招かれ、ここで重要な業績を挙げます。この年、彼は著名な物理化学者マイケル・ポランニーと共に活性化エネルギーの計算法を発表し、この法則はアイリング-ポランニーの式として知られるようになりました。また、1935年にアメリカに帰化し、1938年にはプリンストン大学で教授に就任。1946年にはユタ大学で教授職を務めることになりました。

彼の著作『反応速度論』は、化学界における重要な作品として知られています。1949年にはユタ大学大学院の学部長となり、1963年からはアメリカ化学会、1965年からはアメリカ科学振興協会の理事長を務めました。

受賞歴

アイリングの功績は多くの賞で評価されました。代表的なものには、1932年に受賞したニューカム・クリーブランド賞、1949年のビンガム・メダル、1960年のレムセン賞、さらには1966年に受賞したアメリカ国家科学賞物理学賞などがあります。また、1979年にはBerzelius Medal、1980年にはウルフ賞化学部門が授与され、その活躍は生涯にわたって称賛されました。

私生活と死去

1981年、アイリングはソルトレイクシティでこの世を去りました。彼は熱心な末日聖徒イエス・キリスト教会の信者であり、彼の息子であるヘンリー・B・アイリングも重要な宗教的役割を果たしています。

彼の業績は、化学を研究する若い世代にとっても大きな影響を与え続けており、反応速度論の分野における理論的なアプローチは、現代化学の重要な基盤となっています。アイリングは、科学や教育の分野でその存在感を示した、名実ともに優れた研究者でした。

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