ヘンリー・ティングル・ワイルド

ヘンリー・ティングル・ワイルド

ヘンリー・ティングル・ワイルド（1872年9月21日 - 1912年4月15日）は、イギリスの航海士で、客船タイタニック号の航海士長を務めました。彼はこの船の悲劇的沈没事故において命を落としました。その経歴をひも解いてみましょう。

経歴の始まり

ワイルドはリヴァプール・ウォルトン出身であり、古い横帆艤装船の見習いとして航海の世界でキャリアをスタートさせました。彼は二等航海士資格である2nd Mate's Certificateに合格した後、マランハン汽船会社で二等航海士として勤務しました。その後、船長資格であるMaster's Certificateを取得し、ホワイト・スター・ラインに下級士官として入社しました。彼はリヴァプールとニューヨーク、さらにはオーストラリア行きの船で活躍しました。

1905年にはアラビック号に、1905年から1906年にはセルティック号、1906年から1908年にはメディック号、そして1908年にはシムリック号に勤務していました。この間に、特別船長資格（Extra Master's Certificate）を取得し、1902年にはイギリス海軍予備員中尉に昇進しています。

タイタニック号との関わり

1911年5月からオリンピック号の航海士長を担当していたワイルドは、その後、ホワイト・スター・ラインの重役やエドワード・スミス船長から高く評価されました。そして、1912年4月のタイタニック号の処女航海前、急遽航海士長に任命されました。元々はウィリアム・マクマスター・マードックがその役割を果たしていましたが、ワイルドの登場によりマードックは一等航海士に降格されました。

興味深いことに、ワイルドは妹宛の手紙の中でタイタニック号について「この船を好きになれない」「嫌な感じがする」と述べていたことが知られています。彼は、船のブリッジではスミス船長と共に、マードック一等航海士、ライトラー二等航海士といった上級士官たちと共に指揮を執っていました。

沈没事故当日の出来事

1912年4月14日午後11時40分、タイタニック号が氷山に衝突した際、ワイルドは当直ではありませんでしたが、異変に気が付いてブリッジに急行しました。その際に、スミス船長に対して事態の深刻さを尋ねました。スミス船長が「深刻どころではない」と答えた後、ワイルドは救命ボートの準備をするよう指示されました。

午前0時20分頃、スミス船長はマードックを右舷ボート、ライトラーを左舷ボート担当に指名しましたが、ワイルドには特定の役割は与えられませんでした。彼は全体的な監督を期待されていたものの、実際にはスミス船長の命令を伝えることに専念していたようです。このため、他の士官たちが命令系統を無視する事態が発生しました。

最期の瞬間

ワイルドの最期については多くの謎があります。生存者は彼がブリッジに留まっていたと証言しており、彼が救命ボートの準備や乗客の誘導を行っていた姿を見た者はいませんでした。しかし、いくつかの証言では、ワイルドが自殺した可能性が示唆されています。一方で、彼の遺体は決して発見されませんでした。

彼の運命や行動はタイタニック号の悲劇の中で語り継がれ、今日でも多くの人々の記憶に刻まれています。ワイルドはその一生を海で捧げ、悲劇の中で名を残しました。

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