ヘンリー・ハインドマン

ヘンリー・ハインドマン：イギリス社会主義運動の複雑な軌跡

ヘンリー・メイヤーズ・ハインドマン（1842年3月7日-1921年11月20日）は、19世紀から20世紀初頭にかけてイギリスで活躍した政治家にしてジャーナリストです。彼の生涯は、保守主義からの出発、マルクス主義への傾倒、社会主義政党の創設と分裂、そして愛国主義的な転向という、複雑で興味深い軌跡を描いています。

ロンドンの法廷弁護士の子として生まれたハインドマンは、名門ケンブリッジ大学で教育を受けました。当初は父親と同じく保守党に所属し、党からの資金援助を受けていた時期もありました。しかし、フェルディナント・ラッサールやカール・マルクスの思想に触れ、『共産党宣言』や『資本論』に感銘を受け、社会主義思想に傾倒していくのです。

1881年、ハインドマンはイギリスにおける最初の社会主義政党である社会民主連盟（当初は民主連盟）を創設しました。この党には、ウィリアム・モリス、カール・マルクスの娘であるエレノア・マルクス、アニー・ベサント、ラムゼイ・マクドナルド、エドワード・カーペンター、イーディス・ネズビットといった著名なメンバーが集まりました。彼等は土地、銀行、鉄道の国有化、初等教育の無償化などを主張するなど、社会主義的な政策を積極的に訴えました。

ハインドマンはマルクス主義社会主義の理論的普及と組織化に尽力しましたが、同時に彼の独裁的な性格は党内における大きな問題となりました。その結果、1884年末にはウィリアム・モリスやカール・マルクス自身を含む多くの主要メンバーが党を離脱する事態に発展します。

1900年には労働代表委員会（後の労働党の母体）に合流するものの、ハインドマンは一貫して革命的な立場を堅持し、議会主義を重視する労働党には加わることはありませんでした。また、彼は独特の帝国主義的構想を抱いており、保守党の重鎮であったベンジャミン・ディズレーリとも交流を持っていたという興味深い事実も残されています。

1905年には、インドの自治を訴え、後のインド共産党やヒンドゥー・ナショナリズムの創設者らとともにインディア・ハウスを設立するなど、国際的な視野も持っていました。

第一次世界大戦が始まると、ハインドマンは愛国的な立場からイギリス参戦を支持。1916年には国家社会主義党を結成し、ジョン・ジョセフ・ジョーンズなど数名の党員を議会に送り込むなど、政治活動を続けました。

1921年に死去したハインドマンの生涯は、イギリス社会主義運動の黎明期における複雑な政治的・思想的潮流を象徴するものでした。彼の独裁的な傾向と革命的な理想、そして、保守主義と社会主義、愛国主義といった相反するイデオロギーの間を行き来した彼の複雑な人生は、今もなお研究者の関心を集めています。彼の活動は、単なる社会主義運動史の一側面にとどまらず、イギリス政治史、帝国主義史、そしてインド独立運動史を考える上でも重要な視点を与えてくれると言えるでしょう。

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