ヘンリー・フィッツロイ (初代グラフトン公)

初代グラフトン公ヘンリー・フィッツロイ

初代グラフトン公ヘンリー・フィッツロイ（Henry FitzRoy, 1st Duke of Grafton）は、1663年9月28日に生まれ、1690年10月9日に没した、イングランドの貴族であり軍人です。

彼は、当時のイングランド国王チャールズ2世と、その著名な愛人であったバーバラ・パーマー（後の初代クリーヴランド女公爵）との間に生まれた非嫡出子でした。バーバラが生んだ3人の非嫡出男子の次男にあたり、同母兄には初代サウサンプトン公爵・第2代クリーヴランド公爵チャールズ、同母弟には初代ノーサンバーランド公爵ジョージがいます。興味深いことに、ヘンリーの出生に関しては、母バーバラの別の愛人であるヘンリー・ジャーミンの子ではないかという疑惑が一時期ささやかれていました。チャールズ2世自身も当初はこの説を疑い、認知にためらいを見せましたが、母バーバラの強い抗議により、最終的に王の子として認知される運びとなりました。

彼は1672年8月1日に、チャールズ2世の有力な側近であった初代アーリントン伯ヘンリー・ベネットの一人娘イザベラと結婚しました。この結婚は、フィッツロイの後の人生にも深く関わることになります。

ヘンリーが爵位を得る背景には、母バーバラの強い意欲がありました。彼女は、同じくチャールズ2世の愛人であったルイーズ・ケルアイユ（初代リッチモンド公チャールズ・レノックスの母）ら他の女性たちへの対抗心から、自身の息子たちに高い身分と財産を確保しようと、宮廷内で活発な働きかけを行いました。その努力の結果、ヘンリーには1672年8月16日、イングランド貴族爵位としてユーストン伯爵、イプスウィッチ子爵、サドバリー男爵が与えられました。これらの爵位には特別継承権が付与されており、直系子孫だけでなく、弟ジョージにも継承されうる規定が設けられていました。さらに、1675年9月11日には、より高位のグラフトン公爵に叙せられました。彼はこのグラフトン公爵位を通じて、今日まで続くグラフトン公爵家フィッツロイ家の礎を築いた人物です。

貴族としての地位を確立した後、ヘンリーは軍人としてもキャリアを積みました。1680年には、イングランドで最も権威ある勲章の一つであるガーター勲章を授与されました。また、彼は1681年から1688年にかけて、そして再び1688年から1689年にかけて、第1近衛歩兵連隊の連隊長を務めました。軍務以外にも、1682年から1683年には海事関連の重要な組織であるトリニティ・ハウスの長官を務めています。海軍でも昇進を重ね、1682年にカンバーランド公ルパートが死去すると、その後任として海軍副提督に就任し、1689年までその職にありました。

政治的な場面にも登場し、1685年4月23日に行われたジェームズ2世の戴冠式では、儀式において重要な役割である大司馬を務めました。同年6月には、王位を主張するモンマス公が起こした反乱の鎮圧作戦に参加しています。同年7月28日には、妻イザベラの父である初代アーリントン伯が死去し、妻が第2代アーリントン女伯爵位とそれに伴う莫大な財産を相続しました。ヘンリー自身も、1685年11月9日からは貴族院議員として議会に参加するようになります。また、同年から1689年までサフォーク統監も務めました。

この頃から、彼は後に初代マールバラ公となるジョン・チャーチルと行動を共にすることが増えました。1688年に起こった名誉革命という歴史的な転換点では、ヘンリーはチャーチルと共にジェームズ2世の軍隊から離脱し、オランダから招かれたウィリアム3世側へと寝返りました。これは、当時のイングランド貴族にとって重要な決断でした。1690年には、再びチャーチルに従い、アイルランドにおけるウィリアマイト戦争の一環である南アイルランド遠征に参加しました。しかし、同年に行われたコーク包囲戦の最中に重傷を負い、その傷がもとで10月9日に若くして戦死しました。

妻イザベラとの間には一人息子のチャールズ・フィッツロイがおり、彼が父のグラフトン公位を継承しました。チャールズは後に、母イザベラからアーリントン伯位も受け継いでいます。ヘンリー・フィッツロイは、その短い生涯の中で、王の非嫡出子として生まれ、母の尽力で高位の爵位を得て、軍事、政治、海事など多岐にわたる分野で活動し、イングランドの激動期において重要な役割を担った人物でした。彼の死は早すぎましたが、グラフトン公爵家は彼の子孫によって現代まで続いています。

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