ヘンリー・フィッツロイ (初代リッチモンド公爵)

初代リッチモンドおよびサマーセット公爵ヘンリー・フィッツロイは、イングランド王ヘンリー8世と愛妾エリザベス・ブラントの間に生まれた庶子でした。1519年6月15日生まれの彼は、ヘンリー8世が公に認知した唯一の婚外子であり、王の血を引く数少ない男子でした。しかし、庶子であったため王位継承権はなく、華麗な爵位に叙せられたものの、短い生涯を終えることになります。

ヘンリー・フィッツロイの母エリザベス・ブラントは、ヘンリー8世の最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンの侍女でした。王妃の妊娠中に、ヘンリー8世との間に関係を持ち、ヘンリー・フィッツロイを産みます。誕生直後、彼は王の庶子であることを示す「フィッツロイ」という姓を与えられました。ヘンリー8世には他にも庶子がいる可能性がありましたが、公に認知したのはヘンリー・フィッツロイただ一人でした。この事実は、ヘンリー8世が彼を特別視していたことを示唆しています。

1525年、ヘンリー・フィッツロイはわずか6歳で、初代リッチモンド公、サマーセット公、ノッティンガム伯に叙爵されました。この当時、テューダー朝は既に40年以上続いていましたが、34歳となっていたヘンリー8世には、メアリー1世（後の女王）という一人の王女しかいませんでした。男子の誕生を切望していたヘンリー8世にとって、ヘンリー・フィッツロイの存在は、大きな期待と希望を抱かせるものでした。この破格の叙爵は、王位継承の希望が叶わなかったヘンリー8世の複雑な感情を反映しているとも考えられます。彼が正嫡の子ではないという事実への無念さを、この特別待遇を通して垣間見ることができるのです。

その後、ヘンリー・フィッツロイは1533年、第3代ノーフォーク公トーマス・ハワードの娘メアリー・ハワードと結婚します。トーマス・ハワードは、ヘンリー8世の王妃アン・ブーリンとキャサリン・ハワードの伯父にあたります。この結婚は、王室との繋がりをさらに強固にするものでした。しかし、結婚生活は長くは続きませんでした。1536年、わずか17歳で肺結核のため夭逝し、子孫を残すことなく生涯を終えました。

ヘンリー・フィッツロイの短い生涯は、王室の権力と愛、そして、その影にある悲劇を象徴するものです。彼は王の血を受け継ぎ、莫大な富と栄誉を得ましたが、王位継承という夢は叶いませんでした。彼の夭折は、ヘンリー8世の期待と失望、そして王室の不安定さを改めて浮き彫りにした出来事と言えるでしょう。彼の短い人生は、歴史の陰に隠された、多くのドラマを物語っています。彼の存在は、ヘンリー8世の個人的な感情、政治的な戦略、そして王室の運命と深く結びついており、歴史を理解する上で重要な要素と言えるのです。

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