ヘンレ係蹄 (下行脚)

ヘンレ係蹄下行脚（Descending limb of loop of Henle）

ヘンレ係蹄下行脚は、腎臓の機能単位であるネフロンの一部、特にヘンレのループにおける最初の部分を指します。この細尿管の特定のセグメントは、皮質から髄質へと向かって下行し、腎臓が尿の濃縮を行う過程で極めて重要な役割を果たします。

生理学的機能

ヘンレ係蹄下行脚の主要な機能は、尿の濃縮です。これは、腎臓の髄質部が維持している特殊な高浸透圧環境によって可能になります。ヘンレ係蹄の上行脚（特に太い部分）が間質液中に溶質（主に塩類）を能動的に輸送することで、髄質間質液の浸透圧は皮質に近い約300 mOsmol/Lから、腎臓の最深部では最大1400 mOsmol/Lにも達します。この大きな浸透圧勾配が、下行脚を通過する尿と周囲の間質液との間に生じます。

ヘンレ係蹄下行脚の管壁は水に対する透過性が非常に高く、一方で溶質（イオンなど）に対しては透過性が比較的低いという特徴を持っています。この特性により、下行脚を流れる尿は、周囲の高浸透圧の間質液に向かって水分を透過的に失います。尿から水分が引き出されるにつれて、下行脚を流れる尿の浸透圧は徐々に上昇していきます。その結果、ヘンレ係蹄下行脚の終末部、すなわちループの最深部に到達する頃には、尿の浸透圧は周囲の髄質間質液の浸透圧とほぼ等しくなり、出発点での約300 mOsmol/Lから最大で約1400 mOsmol/Lにまで劇的に増加します。この過程は、その後に続くヘンレ係蹄上行脚での溶質再吸収と集合管での水の再吸収と連動し、最終的に体内の水分バランスを調節し、必要な量の水を保持するために濃縮された尿を生成する機構の一部をなしています。

解剖学的特徴

ヘンレ係蹄下行脚の管壁を構成する上皮組織は、基本的に単純立方上皮です。しかし、この上皮細胞は比較的薄く、形態的には特徴に乏しい場合があります。組織学的な観察において、ヘンレ係蹄下行脚を識別する際には、周辺の構造と比較検討することが有効です。例えば、近くを走行する直細血管（vása récta）は赤血球を含んだ血液が見られますが、下行脚の管腔には血液は存在しません。また、ヘンレ係蹄の太い上行脚はより厚い上皮細胞を持っているため、その厚さとの比較も識別の手がかりとなります。

名称と区分

ヘンレ係蹄下行脚には、上行脚と同様に「太い部分」と「細い部分」が存在することが知られています。しかし、その構造的な連続性から、これら二つの部分はしばしば一つの構造としてまとめて扱われ、詳細な区別が臨床的または生理学的な文脈でそれほど重要視されないことが一般的です。特に、下行脚の太い部分は細い部分に比べてその機能的重要性があまり高くないため、「下行脚」という言葉が「細い下行脚」と同義で用いられることも少なくありません。注意すべき点として、「細い脚」（thin limb）という用語が使われる文献もありますが、この表現はヘンレ係蹄下行脚の細い部分だけでなく、ヘンレ係蹄上行脚の細い部分をも含む可能性があるため、文脈によってどちらを指しているのかを正確に判断する必要があります。

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