ヘヴィ・ウェザー

ウェザー・リポートのキャリアにおいて、商業的成功と批評的評価の両面で頂点を極めた作品が、1977年にコロムビア・レコードからリリースされた通算７作目のスタジオ・アルバム『ヘヴィ・ウェザー』です。

リリース当初から本作は大きな注目を集め、約50万枚というバンド史上最高のセールスを記録しました。これは当時のジャズ・アルバムとしては異例の数字であり、ウェザー・リポートを一躍、より広範な音楽リスナーに知らしめる契機となりました。同時に、専門家からの評価も非常に高く、ジャズ専門誌『ダウン・ビート』では満点となる星５つを獲得したほか、同誌の読者投票でも1977年のジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤーに選出されています。一部の熱心な批評家やファンからは、バンドが到達した芸術的な高みを示す最高傑作として位置づけられることも少なくありません。

本作の成功を語る上で欠かせないのが、当時バンドに正式加入して２作目となるベーシスト、ジャコ・パストリアスの存在です。前作『ブラック・マーケット』では一部楽曲へのゲスト参加に留まっていましたが、『ヘヴィ・ウェザー』では初めてレギュラー・メンバーとして全曲に参加。その革新的なフレットレス・ベースのプレイは、バンドのサウンドに新たな次元をもたらしました。

アルバムのハイライトであり、最も広く知られる楽曲は、オープニングを飾る「バードランド」です。この楽曲は、インストゥルメンタルでありながら異例とも言える商業的な成功を収め、ポップス畑のリスナーをも巻き込みました。その後、多くのアーティストによってカバーされ、ジャズの新たなスタンダード・ナンバーとして定着しています。そのメロディの起源は、バンドの中心人物であるジョー・ザヴィヌルが自身のソロ・アルバム『ザヴィヌル』（1971年）に収録した「名誉博士号 (Doctor Honoris Causa)」のライヴ演奏中に生まれたフレーズが発展したものです。ジャコ加入以前にもキーボードのみによる演奏でのライブ録音が存在しましたが、「バードランド」という楽曲を決定づけたのは、まさにジャコ・パストリアスによる鮮烈なフレットレス・ベースの響き、とりわけ彼の代名詞とも言えるピッキング・ハーモニクスを駆使したプレイに他なりません。

アルバム全体を通して、ジャコ・パストリアスのベースに加え、ジョー・ザヴィヌルの多彩なキーボード（アープ2600、ローズ・ピアノ、ヤマハ・グランド・ピアノ、オーバーハイム・ポリフォニック・シンセサイザーなど）、ウェイン・ショーターのソプラノ・テナーサックスが織りなす複雑かつキャッチーなアンサンブルが展開されます。さらに、ドラムのアレックス・アクーニャとパーカッションのマノロ・バドレーナが加わり、リズムセクションはより強固かつ多様なグルーヴを生み出しています。

アルバムのカバーアートは、ルー・ビーチがデザインを手がけており、中央に印象的なフェルト製の中折れ帽が配置されたシンプルながらも記憶に残るものです。

『ヘヴィ・ウェザー』は、1970年代に隆盛を極めたジャズ・ロック、あるいはフュージョンというジャンルにおいて、間違いなくその歴史を語る上で欠かせない金字塔的作品と位置づけられています。コロムビア・レコードの豊富なジャズ・カタログの中でも屈指のベストセラーとして現在もその地位を保ち続けており、フュージョンの入門盤としても広く推薦される名盤です。

パーソネル

ジョー・ザヴィヌル - キーボード各種、ボーカル、メロディカ、ギター、タブラ
ウェイン・ショーター - サクソフォーン各種
ジャコ・パストリアス - フレットレス・ベース、メロディカ、ボーカル、ドラム、スティールパン
アレックス・アクーニャ - ドラム、コンガ、トムトム、手拍子
* マノロ・バドレーナ - タンバリン、コンガ、ボーカル、ティンバレス、パーカッション

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