ベイラー医科大学

ベイラー医科大学

ベイラー医科大学（Baylor College of Medicine、略称BCM）は、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市にある、世界有数の規模を誇る医療集積地、テキサス医療センターの中心部にキャンパスを構える私立医科大学です。主に、次世代の医師を育成する医学部（メディカルコース）と、生物医学分野における最先端の研究を行う大学院大学から構成されています。

歴史的背景

ベイラー医科大学の起源は、1900年にベイラー大学の医学系卒業生たちがテキサス州ダラスに創設したUniversity of Dallas Medical Departmentにさかのぼります。この組織は1903年にベイラー大学医学部としてベイラー大学に編入されました。大きな転換期は1943年に訪れます。ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターの誘致を受け、施設をテキサス医療センター内へと移転したのです。そして1969年、ベイラー大学から正式に独立し、現在の「ベイラー医科大学」という名称になりました。現在、同じテキサス州内に存在するベイラー大学（Baylor University）は別の教育機関ですが、両校は研究や組織運営において緊密な関係を保っており、例えばベイラー大学理事会はベイラー医科大学評議員の一部を選出しています。

教育と研究の卓越性

ベイラー医科大学は、米国内の医学および生物医学分野において、常に高い評価を得ています。『USニューズ&ワールド・レポート』誌の医学部ランキングでは、プライマリ・ケア分野で約180校中17位、研究分野で22位に位置するなど、全米トップクラスの水準が認められています。生物医学系大学院もまた、米国内25位以内、世界35位以内に入る高評価を受けています。

特に、遺伝学の分野ではその実力が顕著であり、世界ランキングで1位を獲得しています。この分野における卓越性は、米国最大の研究費助成機関であるアメリカ国立衛生研究所（NIH）から、12年連続で最多の助成金を獲得していることによって裏付けられています。また、「World University Rankings」においては、教授陣・教職員の質で満点評価を受けており、世界トップレベルの研究指導者および医療指導者が揃っていることが高く評価されています。

医学部には毎年約200名の学生が入学し、その約75％がテキサス州内の出身者です。私立としては比較的学費が抑えられている点も特徴の一つです。さらに、NIHが全米で50校のみを選定している、学費と生活費の全額を支援するMD-PhDプログラム（Medical Scientist Training Program; MSTP）を有しており、毎年約10名の特に優秀な学生がこのプログラムに参加しています。テキサス州内の医学部ではトップクラスと見なされています。

大学院大学では、極めて高い研究レベルを誇ります。生物医学分野全体で米国内総合25位以内、世界総合35位以内にランクインしており、中でも遺伝学分野は世界ランキング1位と傑出しています。その他の7つの主要な専門分野も全米トップ20位以内に入るなど、多様な分野で質の高い研究活動が展開されています。ベイラー医科大学の大学院課程は、日本における大学院レベルに相当し、医学部（メディカルコース）に進む学生と、生物医学研究を志す学生で構成されます。年間約100名の大学院生を受け入れており、国内学生が約70％、留学生が約30％で、男女比はほぼ同じです。テキサス医療センターの中核という立地を活かし、多数の医療機関や研究施設との連携を通じて、臨床応用につながる研究が非常に盛んに行われ、その成果が迅速に医療現場へ還元されていることでも知られています。大学院では現在、以下の8つの主要な研究プログラムを提供しています。

• - がん・細胞生物学
• - 化学・物理・構造生物学
• - 発生生物学
• - 疾患モデル及び治療薬開発
• - 遺伝学・ゲノミクス
• - 神経科学
• - 免疫学・微生物学
• - 定量的計算バイオサイエンス

キャンパスと研究施設

ベイラー医科大学の本校舎は1960年代に建設され、その後複数回にわたる増築を経て、大学院大学としては比較的大きな規模のキャンパスを形成しています。建物内には建設時期の異なるブロックが混在しています。また、本校舎から少し離れたテキサス医療センター内に、主に臨床医の教育や臨床研究に特化したMcNairキャンパスがあります。テキサス医療センター内に位置するという特性上、ベイラー医科大学の研究室やオフィスは、本校舎だけでなく、テキサス小児病院、Jan and Dan Duncan神経研究センター、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターなど、周辺の多様な提携医療機関内に広く点在しており、広範な研究ネットワークを構築しています。

研究スペースとしては80万平方フィート以上を確保しており、通常の研究室に加え、以下のような多数の専門施設を設置しています。

• - BCM's Human Genome Sequencing Center (ヒトゲノムシーケンシングセンター)
• - The Human Neuroimaging Lab (ヒト神経画像ラボ)
• - The Dan L. Duncan Cancer Center (ダンL.ダンカンがんセンター)
• - The Center for Cell and Gene Therapy (細胞および遺伝子治療センター)
• - The Huffington Center on Aging (老化センター)
• - The Influenza Research Center (インフルエンザ研究センター)
• - The National Center for Macromolecular Imaging (大分子画像センター)
• - The W.M. Keck Center for Computational Biology (W.M.ケック計算生物学センター)
• - The Epigenomics Data Analysis and Coordination Center (エピゲノミクスデータ解析・連携センター)
• - Core facilities (顕微鏡、DNA/RNAシーケンシング、マイクロアレイ、プロテインシーケンシングなど)
• - One of the largest transgenic mouse facilities in the country (国内最大級のトランスジェニックマウス施設)

附属および関連病院

ベイラー医科大学は、テキサス医療センターを拠点として、多数の病院と強固な提携関係を結んでいます。中でも、CHI St. Luke's Healthグループの一部であるBaylor St. Luke's Medical Centerは共同所有しており、医師や医学生向けの臨床教育機関として重要な役割を果たしています。この病院は、『USニューズ&ワールド・レポート』誌において、心臓病・心臓手術、糖尿病・内分泌学、胃腸病学・消化器外科、呼吸器科といった分野で全米トップクラスの病院として評価されており、40以上の細分化された専門分野で最先端の治療を提供しています。

ベイラー医科大学が提携または関連する主要な病院および患者ケア協力機関は以下の通りです。

主要提携病院

• - CHI St. Luke's Health (Baylor St. Luke's Medical Center を含む多数の施設)
• - Texas Children's Hospital
• - The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center
• - Houston Methodist Hospital
• - Michael E. DeBakey Veterans Affairs Medical Center
• - Ben Taub General Hospital
• - Memorial Hermann – The Institute for Rehabilitation and Research
• - Menninger Clinic
• - Children's Hospital of San Antonio

患者ケア協力機関

• - Community Health Centers
• - Cullen Bayou Place
• - DePelchin Children's Center
• - Houston Child Guidance Center
• - Jewish Family Service Cancer Center
• - Kelsey-Seybold Clinic
• - Park Plaza Hospital
• - Quentin Mease Hospital
• - Seven Acres Jewish Geriatric Center
• - Houston Shriners Hospital
• - Thomas Street Health Center
• - Woman's Hospital of Texas

著名な関係者

ベイラー医科大学は、医学および生物医学分野に多大な貢献をした多くの著名な研究者、臨床医、教育者を輩出しています。以下はその一例です。

• - Arthur L. Beaudet, MD — 分子遺伝学・ヒト遺伝学の教授、全米科学アカデミー会員
• - Hugo J. Bellen — 発生生物学者、ハワードヒューズ医学研究所調査員
• - Malcolm Brenner, MD, PhD — 細胞・遺伝子治療センター元所長
• - William "Bill" R. Brinkley — 細胞生物学者（有糸分裂紡錘体装置研究の先駆者）
• - F. Charles Brunicardi, MD — DeBakey外科元議長、『シュワルツの外科原則』編集長
• - Selma Calmes — 麻酔科医、麻酔歴史協会共同創設者
• - C. Thomas Caskey — 臨床遺伝学者、生物医学起業家
• - Denton Cooley — テキサスハートインスティテュート創設者、心臓血管外科医（人工心臓移植成功者）
• - Michael E. DeBakey — 受賞歴多数の著名な心臓血管外科医
• - Christine Beeton, PhD — 受賞歴多数の免疫学者
• - Ralph Feigin — ベイラー医科大学元学長、テキサス小児病院元社長
• - O.H. Frazier — 1000件以上の心臓移植を行った心臓外科医
• - Richard A. Gibbs, PhD — 遺伝学者
• - Mark Kline, MD — テキサス小児病院元医師長、ベイラー国際小児エイズイニシアチブ元ディレクター
• - Daniel Musher — 医学・分子ウイルス学・微生物学教授
• - Bert W. O'Malley — 全米科学アカデミー賞受賞者、ホルモン作用・遺伝子発現研究者、全米科学アカデミー会員
• - C. Kent Osborne, MD — ダンL.ダンカンがんセンター所長
• - David Poplack, MD — テキサス小児がんセンター所長、小児科教授
• - Michael J. Reardon — 心臓サルコーマ自家移植に世界で初めて成功した心臓外科医
• - Huda Zoghbi — 全米科学アカデミー会員、ハワードヒューズ医学研究所調査員、神経精神科医、Jan and Duncan Neurological Research Institute所長

これらの人物をはじめ、多くの卒業生や教職員が医学・科学の発展に貢献し続けています。

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