ベタイン

ベタインとは

ベタイン（betaine）は、分子内に正電荷と負電荷を同時に持ちながら、分子全体としては電気的に中性である化合物の総称です。このタイプの化合物は「分子内塩」とも呼ばれます。特に、正電荷を持つ原子（多くの場合、窒素原子など）に解離可能な水素原子が結合しておらず、四級アンモニウムやスルホニウム、ホスホニウムといった構造をとることが特徴です。

もともと「ベタイン」という言葉は、テンサイ（サトウダイコン、学名 Beta vulgaris）から初めて分離されたトリメチルグリシン（グリシンベタインとも呼ばれます）という特定の化合物を指していました。しかし、現在ではトリメチルグリシンを含め、アミノ酸のアミノ基に3つのメチル基が結合したような類似構造を持つ化合物を広く含める総称として用いられています。特に化学分野においては、冒頭に述べたような特定の分子構造を持つ化合物群全体を指す用語として定着しています。

自然界における存在と機能

ベタイン類は自然界に広く存在しており、特に植物や海産物によく見られます。これらの生物の体内では、細胞内の水分量を維持したり、環境の変化（乾燥や塩分濃度の上昇など）に対するストレス耐性を高めたりする「オスモライト」として機能するなど、保湿や浸透圧の調整に関わっています。

人間が食品としてベタインを含むものを摂取した場合、それは独特の甘みやうま味として感じられることがあります。

また、私たちの体内でも、コリンという物質の代謝経路を通じてベタインの一種であるトリメチルグリシンが生成されます。このトリメチルグリシンは、動脈硬化の危険因子として知られるホモシステインの代謝に重要な役割を果たしています。

生体物質として知られるベタイン類の例としては、トリメチルグリシンの他に、カルニチンやプロリンベタインなどがあります。

用途

ベタイン類は、その多様な性質から様々な分野で利用されています。

食品添加物・化粧品

日本では、ベタインは食品添加物として、また化粧品の保湿成分として広く使われています。保湿剤としては、肌の水分を保持し、乾燥から守る目的で配合されます。

医薬品

特定の疾患に対する医薬品としても利用されることがあります。

先天性ホモシステイン尿症の治療

遺伝的にホモシステインの代謝がうまくいかず、血中や組織にホモシステインが過剰に蓄積してしまう「先天性ホモシステイン尿症」という希少疾患の患者さんに対して、トリメチルグリシンが医薬品として経口投与されることがあります。

この治療の目的は、蓄積したホモシステインの量を減らすことです。体内で生成されたホモシステインは、通常メチオニンという別のアミノ酸に変換される代謝経路があります。トリメチルグリシンは、この変換を担う酵素である「ベタイン-ホモシステイン-S-メチルトランスフェラーゼ」の基質となり、ホモシステインからメチオニンを再生する反応を促進します。

ただし、ベタインの投与によってメチオニンが過剰に生成され、脳浮腫などの副作用を引き起こす可能性も指摘されています。そのため、治療中は患者さんの血漿中のホモシステイン濃度だけでなく、メチオニン濃度も定期的に測定し、その値を見ながらベタインの投与量を慎重に調整する必要があります。

肝疾患の治療

ドイツなど一部の国では、ベタインのクエン酸塩が、脂肪肝を含む様々な肝疾患の治療薬として投与される場合があります。

関連項目

オスモライト: ベタイン類の中には、細胞の浸透圧を調整するオスモライトとして機能するものが多く存在します。
ホモシステイン
コリン
メチオニン

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