ベニスに死す (映画)

映画『ベニスに死す』

『ベニスに死す』は、1971年にアメリカとイタリア、フランスの共同制作として公開された映画です。監督はルキノ・ヴィスコンティが務めており、その作品はトーマス・マンの同名小説を基にしています。映画は132分の長さで、カラーのスコープサイズで撮影されました。特に、そのテーマ音楽にはグスタフ・マーラーの交響曲第5番の第4楽章である「アダージェット」が使用されており、これが後にマーラー人気の復興を促す要因となりました。

ストーリー概要

物語は、静養のために美しいベニスを訪れた老作曲家のグスタフ・フォン・アッシェンバッハが、ポーランド貴族の少年タッジオに出会うところから始まります。彼はタッジオの美しさに心を奪われ、理想の美をその少年に見出すようになります。それ以来、アッシェンバッハは浜辺の回廊を歩きながら、タッジオを追い求めます。

しかし、ある日ベニス中で消毒作業が始まります。周りの人々は疫病の影響について真実を語らず、アッシェンバッハは漠然とした不安を抱きながらも、ベニスを離れることができません。彼は外見を若々しく見せようと白粉や口紅で化粧し、死の香り漂う街を彷徨い続けます。最終的に、彼は力尽きて倒れ、そのまま波打ち際でタッジオに目を向けながら静かに息を引き取ります。

キャストと受賞歴

この映画は多くの国際的な賞を受賞しており、1971年のカンヌ国際映画祭では25周年記念賞を受賞しました。また、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の監督賞や、ナショナル・ボード・オブ・レビューのベスト10選出など、多数の栄誉が付随しています。

特に1972年にはキネマ旬報ベストテンで第1位を獲得し、英国アカデミー賞では美術賞や撮影賞、衣装賞など多くの部門でノミネートされました。

音楽の役割

マーラーの音楽は、映画の感情表現において非常に重要な役割を果たしています。「アダージェット」はこの映画の重要な音楽的テーマとして機能し、アッシェンバッハの内面的葛藤や情熱を繊細に表現しています。映画内では他にもマーラーの交響曲第3番や第4番、モデスト・ムソルグスキーの『子守歌』など、様々なクラシック曲が使用されています。

原作と変更点

原作ではアッシェンバッハは作家として描かれていますが、映画では彼が作曲家に変更されました。これは、原作者であるトーマス・マン自体が音楽家グスタフ・マーラーからインスピレーションを受けているからです。また、同時代の作曲家であるアルノルト・シェーンベルクも登場人物の一人として描かれています。

ドキュメンタリー

ヴィスコンティは、タッジオを演じる俳優を探す過程を追ったドキュメンタリー『タッジオを求めて』（1970年）も製作しており、この作品の裏側にも興味が持たれています。

『ベニスに死す』は、単なる映画を超えて、視覚と音楽の融合による深い美しさを持った作品として、今でも多くの人に愛され続けています。

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