ベニー・ゴルソン

ベニー・ゴルソン：作曲家としても知られるジャズ・サックスの巨匠

ベニー・ゴルソン（1929年1月25日 - 2024年9月21日）は、アメリカが生んだ偉大なジャズ・サクソフォーン奏者であり、作曲家、編曲家としても多大な功績を残しました。ハワード大学を卒業し、長きにわたりジャズ界の第一線で活躍した彼は、ハード・バップというスタイルを確立した演奏家として知られています。

しかし、ゴルソンの真価は、演奏家としてだけでなく、作曲家、編曲家としての才能にもありました。クインシー・ジョーンズ、ラロ・シフリン、オリヴァー・ネルソンといった巨匠たちと並び、1950年代から1960年代にかけてのハード・バップ隆盛期における代表的なジャズ編曲家の一人として高く評価されています。彼の作曲した楽曲のいくつかは、今日ではジャズ・スタンダードとして広く親しまれています。

生い立ちと初期の音楽活動

幼少の頃から楽器に親しんだゴルソンは、後にサックスへと転向。ペンシルベニア州フィラデルフィアの高校在籍中から、本格的なジャズ演奏活動を開始しました。この時期に、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド、ジミー・ヒース、パーシー・ヒース、フィリー・ジョー・ジョーンズ、レッド・ロドニーなど、後にジャズ界を牽引する多くのミュージシャンたちと交流を深めたことは、彼の音楽人生において大きな意味を持ちました。

ハワード大学卒業後、ゴルソンはブル・ムース・ジャクソンのリズム&ブルース・バンドに参加。ここで、ピアニストのタッド・ダメロン（1917年 - 1965年）から薫陶を受けます。ダメロンは、生前こそ過小評価されたものの、初期モダンジャズ、特にビバップの分野において、作曲家、編曲家として重要な足跡を残した人物でした。1953年以降、ゴルソンはダメロンのバンドで活動する傍ら、ヴィブラフォン奏者ライオネル・ハンプトンのビッグバンドや、デューク・エリントン楽団の名サックス奏者ジョニー・ホッジスのバンドでも演奏し、経験を積みました。また、リズム&ブルースの人気サックス奏者、アール・ボスティックのバンドに参加した時期や、トランペッターでありビバップの創始者の一人であるディジー・ガレスピーのビッグバンドに加わったこともありました。

作曲家、編曲家としての才能開花

ライオネル・ハンプトンやディジー・ガレスピーのバンドでは、作・編曲者としても活動し、ビッグバンド向けの編曲スタイルを確立。この頃（1955年 - 1956年）に、「ステイブルメイツ (Stable Mates)」「ウィスパー・ノット (Whisper Not)」などの名曲を発表しました。特に、哀愁を帯びたバラード「ウィスパー・ノット」は、リロイ・ジャクソンの歌詞（レナード・フェザー作詞説は誤り）を得て、ジャズ・ボーカリストにも広く歌われるようになりました。

ハンプトンのバンドでは、才能あふれるトランペッター、クリフォード・ブラウンとも親交を深めますが、ブラウンは1956年に交通事故により25歳の若さでこの世を去ります。この早すぎる死に大きな衝撃を受けたゴルソンは、ブラウンを追悼する曲を作曲することを決意し、数週間をかけて「クリフォードの想い出 (I Remember Clifford)」を完成させました。このバラードは、1957年にリー・モーガンのブルーノート版アルバム『リー・モーガンVol.3』で発表されて以来、広く演奏されるようになり、後にジョン・ヘンドリックスによって歌詞が付けられ、歌曲としても親しまれています。

リーダーとしての活動とジャズ・メッセンジャーズへの参加

1957年、ゴルソンは初のリーダー・アルバム『ニューヨーク・シーン』をコンテンポラリー・レコードから発表。編曲家としての才能を存分に発揮し、9人編成のノネットでビッグバンドのような厚みのあるサウンドを創り上げました。翌1958年には、ドラマーのアート・ブレイキーが率いるバンド「ジャズ・メッセンジャーズ」に参加。ここでもサックス奏者としてだけでなく、作曲家、編曲家としての才能を発揮し、短期間の在籍期間ながら、ジャズ・メッセンジャーズの演奏スタイルに大きな影響を与えました。また、同バンドのピアニストであるボビー・ティモンズ（メッセンジャーズの代表曲「モーニン」の作曲者として知られる）と共に、ジャズ・メッセンジャーズのレパートリーとなる多くの楽曲を作曲。1959年には、カーティス・フラーに、ソウル・ジャズの代表曲「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」を提供。この時期には、「アロング・ケイム・ベティ」「キラー・ジョー」なども作曲しています。

ジャズテット結成とその後

ジャズ・メッセンジャーズ脱退後の1959年、ゴルソンはトランペッターのアート・ファーマーとの双頭バンド「ジャズテット (Jazztet)」を結成し、入念な編曲を伴うハード・バップ演奏を展開しました。1962年のジャズテット解散後、ゴルソンはジャズの第一線から一時的に退き、主にスタジオ・ミュージシャンやオーケストレーションの分野で活動。1960年代から1970年代にかけては、『鬼警部アイアンサイド』『MAS*H』などのテレビ番組の音楽制作に携わりました。

1970年代中期にジャズ界に復帰し、活動を再開。1983年には「ジャズテット」を再結成。以降、定期的にアルバムを発表し、2005年時点でも音楽活動を精力的に続けていました。1995年には、「ナショナル・エンデューメント・フォー・ジ・アーツ」のジャズ・マスター・アウォードを受賞しています。

2004年には、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ターミナル』に本人役でカメオ出演。短い出番ながらも、物語において重要な役割を担いました。

2024年9月21日、マンハッタンの自宅で逝去。95歳でした。

ベニー・ゴルソンの音楽は、時代を超えて多くの人々に感動を与え続けています。彼の残した数々の名曲は、これからもジャズの歴史の中で輝き続けるでしょう。

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