ベリッシマ

『ベリッシマ』：夢と現実の狭間で揺れる母娘の物語

『ベリッシマ』（イタリア語: Bellissima）は、1951年に公開されたルキノ・ヴィスコンティ監督によるイタリア映画です。「もっとも美しい女性」を意味するタイトルが示す通り、本作は映画界を舞台に、女優を目指して奮闘する母娘の姿を描いた作品となっています。ヴィスコンティ監督作品としては珍しいコメディ作品であり、モノクロのスタンダードサイズで、上映時間は115分です。

脚本は、ネオリアリズムを代表する巨匠、チェーザレ・ザヴァッティーニが手掛けています。ザヴァッティーニは『自転車泥棒』や『ひまわり』などの名作脚本でも知られる人物です。ローマを舞台に、娘の映画スターへの道を応援する母親の喜劇と悲劇が描かれ、観る者に深い感動を与えます。助監督には、後にイタリア映画界を代表する監督となるフランチェスコ・ロージとフランコ・ゼフィレッリが名を連ねています。

物語の中心人物は、貧しいながらも娘の将来を真剣に願う母親マッダレーナ（アンナ・マニャーニ）と、映画の子役オーディションを受ける娘のマリア（ティーナ・アピチェッラ）です。マリアはチネチッタ撮影所で行われたオーディションに挑みますが、様々な困難に見舞われます。

オーディション当日、マリアは迷子になり、審査に遅刻してしまいます。さらに、発音にも苦労し、審査員を前に緊張してしまいます。しかし、持ち前の明るさと才能で一次審査を通過します。

マッダレーナは、マリアのオーディション合格のため、あらゆる努力を惜しみません。彼女は出会ったスタッフに頼み込み、写真撮影をしたり、元女優である演技の先生に演技指導を受けさせたり、バレエ教室に通わせたりします。さらに、新しい衣装を用意し、娘を徹底的にサポートします。

二次審査への準備を進める中で、マッダレーナは他の母親たちがコネを使って審査を有利に進めていることを知ります。そこで、彼女は看護士として働き貯めた５万リラを、撮影所のスタッフであるアンノヴァッツィ（ヴァルテル・キアーリ）に託し、関係者への根回しを依頼します。しかし、アンノヴァッツィはそのお金を自分のバイクの購入に使い込んでしまい、さらにマッダレーナに誘惑の手を伸ばします。

マッダレーナはアンノヴァッツィの誘惑を巧みにかわし、審査に臨みます。撮影が終わり、マリアの審査結果を待つ間、マッダレーナはこっそり映写室でフィルムを確認します。しかし、マリアは審査で出された課題で失敗してしまい、監督たちを笑わせてしまいます。

マリアは、ケーキの上のロウソクの火を消すことができず、詩の暗誦でも詰まってしまい、泣き出してしまいます。監督たちはそれを面白がり、大笑いします。マリアの失敗は、マッダレーナにとって大きなショックとなります。

審査の結果、マリアは合格します。しかし、マッダレーナは娘を笑いものにした映画会社に激しい怒りを覚え、契約を拒否します。マリアの女優としての夢は、この時、大きな挫折を味わうことになります。

本作は、貧富の差や映画業界の現実、そして夢と現実の狭間で葛藤する人々の姿を見事に描き出しています。アンナ・マニャーニの熱演は必見です。また、音楽にはドニゼッティのオペラ『愛の妙薬』が使用されている点も注目に値します。さらに、映画の中で上映されている作品は、ハワード・ホークス監督の『赤い河』であり、バート・ランカスターが演じています。ランカスターは後にヴィスコンティ監督作品『山猫』や『家族の肖像』にも出演し、マニャーニとはテネシー・ウィリアムズ作『バラの刺青』の映画化で共演しています。これらの要素も合わせて、この作品をより深く理解することができます。

もう一度検索