ベリングキャット

ベリングキャット（Bellingcat）は、オランダに拠点を置く調査報道機関であり、そのウェブサイト名でもあります。この組織は、公開されている情報、いわゆるオープン・ソース・インテリジェンス（OSINT）を専門としています。ハッキングや秘密の情報源に頼らず、ウェブサイトやソーシャルメディア上で公開されているデータを収集し、詳細な分析を行うことで、事件や紛争の真相を解明することを目指しています。

ベリングキャットの概要

ベリングキャットは、2014年7月にイギリス在住のエリオット・ヒギンズによって設立されました。組織の名前は、イソップ寓話の「ネズミの相談」（英語: Belling the Cat）に由来しています。この寓話は、危険な任務に立ち向かうことを意味しており、ベリングキャットの調査活動の姿勢を象徴していると言えるでしょう。

ベリングキャットは、18人の常勤スタッフと多数のボランティアによって運営されています。彼らは、情報の収集や分析に必要なツールを提供されたり、ワークショップに参加したりすることで、調査能力を向上させています。運営資金は、欧州連合（EU）などの助成金や、個人・法人からの寄付によって賄われています。非営利団体として、独立した立場を維持することを重視しています。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、ベリングキャットはロシアにとって不利な報道を多く行ったため、ロシア政府は公式サイトを閲覧禁止リストに追加しました。しかし、創設者のヒギンズは、ベリングキャットは中立的な立場を維持していると強調し、ウクライナ軍によるクラスター爆弾の使用疑惑についても調査を行っています。

創設者エリオット・ヒギンズの軌跡

ヒギンズは、以前は仕事やオンラインゲームの傍ら、ペンネームで新聞のコメント欄に投稿するなど、時事問題に関心を持っていました。2010年末に中東各国でアラブの春が始まると、デモ隊や戦闘員がインターネットに投稿する画像などを分析し、ブログで公開するようになりました。2013年には、シリア内戦において、クロアチア製の兵器がサウジアラビアを通じて反政府軍に供与されていることを突き止めました。この発見は『ニューヨーク・タイムズ』で報道され、ヒギンズはフルタイムで調査報道に携わることを決意しました。

ベリングキャットの報道活動

ベリングキャットは、軍事紛争や暗殺事件などの真相を調査し、数々のスクープを報道してきました。特に、秘密作戦や国家機密、軍事機密に関わるような情報を、公開情報のみを用いて突き止める手腕は高く評価されています。また、映像などの一次資料の収集や保存、位置情報の確認など、証拠の検証も徹底して行っています。ベリングキャットは、「グローバル認証プロジェクト」と呼ばれる取り組みを通じて、これらの検証作業を世界的に展開しています。

2014年のマレーシア航空17便撃墜事件では、親ロシア派がブーク地対空ミサイルを誤射したことを解明しました。この調査結果は、公的な国際捜査機関による起訴につながり、ベリングキャットの存在が広く知られるきっかけとなりました。2018年の元ロシア人二重スパイ、セルゲイ・スクリパリ暗殺未遂事件では、公開情報や内部告発者からの情報をもとに、関与したロシア連邦軍参謀本部情報総局（GRU）の工作員チームを特定しました。また、2020年のアレクセイ・ナワリヌイ暗殺未遂事件でも、ロシア連邦保安庁（FSB）の工作員チームの関与を突き止めています。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻に関しても、ベリングキャットは戦争法に違反する行為について詳細な調査報道を行っています。ブチャの虐殺、ウクライナ人捕虜に対する残虐行為、ウクライナの住宅・民間インフラに対する精密誘導ミサイル攻撃など、様々な人道上の問題について、その責任者を特定し、情報を公開しています。

日本のメディアでの紹介

ベリングキャットは、日本のメディアでも紹介されています。2020年5月17日には、NHK BSプレミアムでドキュメンタリー番組『デジタルハンター〜謎のネット調査集団を追う〜』が放送され、ベリングキャットの活動が紹介されました。また、2022年8月14日には、NHK総合でドキュメンタリー番組『デジタルウクライナ〜衛星が変えた戦争〜』が放送され、ウクライナ情勢におけるベリングキャットの役割が紹介されました。

関連情報

ベリングキャットの活動は、オープン・ソース・インテリジェンス（OSINT）という分野を代表するものです。彼らの活動は、情報公開が進む現代において、市民がどのようにして情報収集や分析を行い、社会的な問題の真相解明に貢献できるかを示す良い例と言えるでしょう。

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