ベルナールト・ファン・オルレイ

ベルナールト・ファン・オルレイ：フランドルルネサンスの巨匠

ベルナールト・ファン・オルレイ（Bernard van Orley, 1487年-1491年頃 - 1541年1月6日）は、フランドルの画家であり、タペストリーやステンドグラスのデザインも手掛けた多才な芸術家です。ローマ派の作風を持ち、北方ルネサンス期における重要な人物の一人として知られていますが、一般にはあまり知られていないかもしれません。

家系と家族

オルレイ家はもともとルクセンブルクの出身で、その傍系がブラバント公国に移住しました。ベルナールトの父ヴァレンティン・ファン・オルレイは非嫡出子であったため、貴族の血統を継ぐことはできませんでした。ベルナールトと弟のエヴェラルドは、ともにブリュッセルで生まれ、後に画家となりました。

父ヴァレンティンの作品とされるものには、イタリアのサルッツォにある聖ヨセフの生涯をモチーフにした飾壁彫刻の翼の絵画があります。また、弟エヴェラルドの作品ではないかと考えられているものには、アントウェルペンの聖ジェームズ教会所蔵の聖ロクスの生涯を描いたパネル絵があります。

ベルナールトは二度結婚し、最初の妻アフネスが亡くなった後、カテリナと再婚しました。彼は二度の結婚で6人の子供をもうけ、そのうち4人は後に画家になっています。

ファン・オルレイ家の芸術家たち

ファン・オルレイ家は多くの芸術家を輩出しました。ベルナールトの父ヴァレンティンから始まる家系図は以下の通りです。

1. ヴァレンティン・ファン・オルレイ（1466年 - 1532年）
フィリッペ・ファン・オルレイ（タペストリーデザイナー、1491年頃 - 1566年）
ベルナールト・ファン・オルレイ（画家、タペストリーデザイナー、1487年から1491年 - 1541年）
エヴェラルド・ファン・オルレイ（画家、1491年以降 - ?）
ゴマル・ファン・オルレイ（画家、1533年頃に活動）
2. ベルナールト・ファン・オルレイ
ミケル・ファン・オルレイ
ヒエロニムスI・ファン・オルレイ（1567年 - 1602年にかけて活動）
ヒレス・ファン・オルレイ（画家、1535年頃 - 1553年）
3. ヒレス・ファン・オルレイ
ヒエロニムスII・ファン・オルレイ（画家、装飾家）
4. ヒエロニムスII・ファン・オルレイ
ヒエロニムスIII・ファン・オルレイ（肖像画家、装飾家、エッチング画家）
ピーテル・ファン・オルレイ（ミニアチュール作家、風景画家、1638年 - 1708年以降）
フランソワ・ファン・オルレイ（歴史画家）
リヒャルトI・ファン・オルレイ
5. ピーテル・ファン・オルレイ
リヒャルトII・ファン・オルレイ（画家、エッチング画家、1663年 - 1732年）
ヤン・ファン・オルレイ（画家、エッチング画家、1665年 - 1735年）

徒弟時代と初期の作品

ベルナールトがローマでラファエロに師事したという説もありますが、確証はありません。彼はまず父ヴァレンティンのもとで修業を始めた可能性が高いです。ベルナールトはルネサンス芸術への理解を深め、彫刻やラファエロが描いたタペストリーの下絵から影響を受けました。

初期の作品としては、1512年に制作された『ブリュッセルの大工・石工組合の三連祭壇画』があります。この作品は、トマスとマタイという二人の使徒の生涯を描いており、現在はウィーンの美術史美術館とベルギー王立美術館に所蔵されています。

絵画作品

ベルナールトの初期の作品は、ヤン・ファン・エイクやロヒール・ファン・デル・ウェイデンといった初期フランドル派の巨匠たちの影響を受けていましたが、徐々にイタリア・ルネサンスの作風を取り入れるようになりました。ラファエロの作品に見られるような人物描写や空間表現が特徴的です。

1515年には、フールネの聖ヴァルプルギス教会聖十字会から三連祭壇画の制作依頼を受け、1522年に完成させました。この祭壇画は、聖ヘレナと教皇がルネサンス様式の建物の中で会話をする場面を描いており、背面にはキリストの十字架降下が描かれています。

1516年以降、ベルナールトとその工房は、王族や宮廷人からの多くの肖像画の依頼を受けました。彼はカール5世の肖像画を7枚描いたほか、フェルディナントや他の王族の肖像画も手掛けました。

1518年には、ネーデルラント総督マルグリット・ドートリッシュの公式宮廷芸術家に任命され、北ヨーロッパで最初に大規模な工房を経営する芸術家の一人となりました。彼は絵画制作に励むとともに、タペストリーの下絵やステンドグラスのデザインも手がけるようになりました。

ベルナールトの絵画作品の中でも特に重要なものとして、ベルギー王立美術館所蔵の『忍耐の美徳の三連祭壇画』があります。この祭壇画は、マルグリット・ドートリッシュが自身の詩を絵画化するように依頼したもので、ヨブの苦難が描かれています。また、『アネトンの三連祭壇画』も代表的な作品の一つです。

アントウェルペン王立美術館が所蔵する『最後の審判』は、オリジナリティと高い絵画技術から、彼の最高傑作の一つとされています。ブルッヘのノートルダム教会が所蔵する『キリスト磔刑の祭壇画』も重要な作品です。

ベルナールトの肖像画は、宗教絵画とは異なり、控えめで落ち着いた作風が特徴です。モデルの内面描写や感情表現は少なく、静かに座っている姿が描かれることが多いです。これらの肖像画は多くコピーされ、王宮を訪れる貴顕への贈り物として使われました。

プラド美術館所蔵の『洗礼者ヨハネと聖母子』のように、聖人を等身大で描いた作品も多く、16世紀の絵画によく見られる構成となっています。

ベルナールトは初期の作品に自身のサインを入れることが多く、ド・オルレイ家の紋章が用いられています。しかし、この紋章（サイン）が彼のものではなく、父ヴァレンティンのものだという説もあります。

1520年にカール5世の戴冠式のためにネーデルラントを訪れたデューラーは、ベルナールトを「ネーデルラントのラファエロ」と称賛し、彼の肖像画も描いています。

ベルナールトの弟子には、ミヒール・コクシー、ピーテル・ファン・アールスト、ペドロ・カンパーニャなどがおり、彼らはローマ派の作風を確立していきました。また、ランスロット・ブロンデールやファン・フェルメイエンといった弟子たちも、フランドル派の伝統的な画家、デザイナーとして活躍しました。

ベルナールトは、ヤン・ホッサールトやクエンティン・マセイスと並び、16世紀のフランドル絵画にイタリア・ルネサンスの作風を導入した重要な芸術家とされています。彼の絵画は細部まで丁寧に描かれており、色彩豊かな作品が多いです。

タペストリー

当時のタペストリーは絵画よりも高く評価されており、高価な工芸品でした。ベルナールトは若い頃からタペストリーのデザインを手掛けており、1530年以降は、絵画制作よりもタペストリーやステンドグラスのデザインに専念するようになりました。

最初期のタペストリーのデザインとしては、ファン・タクシスの依頼で描かれたノートルダム・デュ・サブロン教会のタペストリーの下絵があります。これらのデザインには、パトロンであるファン・タクシスや神聖ローマ皇帝が描かれています。

1520年代から、ベルナールトがデザインするタペストリーは、イタリア・ルネサンスの影響を受け、彼の絵画に近いものになりました。特に、キリストの受難を表した一連のタペストリーや『哀歌』は、ラファエロやデューラーの影響が明確に見られます。

『マクシミリアンの狩猟』は、ベルナールトがデザインしたタペストリーの中でも最も有名な作品です。12枚のタペストリーで構成され、各月ごとの狩猟の様子が描かれています。このタペストリーは、彼の創造力が最も発揮された作品として評価されています。

ブレダ領主ヘンドリック3世・ファン・ナッサウ＝ブレダの依頼で作成されたタペストリーや、『パヴィアの戦い』を描いたタペストリーも有名です。『天球を持ち上げるヘラクレス』は、ポルトガル王ジョアン2世の依頼で制作されたタペストリーです。

ステンドグラス

晩年のベルナールトは、ステンドグラスのデザインも手がけました。ブリュッセルの聖ミシェル・エ・ギュデル大聖堂のステンドグラスには、ハプスブルク家やシャルルマーニュ大帝が描かれています。また、メヘレンの聖ロンバウツ大聖堂には、マルグリット・ドートリッシュやキリストのエルサレム入城を描いたステンドグラスをデザインしました。これらのステンドグラスは、宗教上の争いで破壊されてしまいましたが、下絵が残っています。

オランダのハールレムの聖バーフ教会にも、ベルナールトがデザインしたステンドグラスが存在しています。

ベルナールト・ファン・オルレイは、絵画、タペストリー、ステンドグラスのデザインと幅広い分野で活躍し、フランドルルネサンスの芸術に大きな貢献をしました。彼の作品は、初期フランドル派の伝統とイタリア・ルネサンスの新しい様式を融合させたもので、その独創性と高い技術は今日でも高く評価されています。

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