ベルナール・マリス

ベルナール・マリス：経済学者、ジャーナリスト、そして反体制の精神

ベルナール・マリス（1946年9月23日 - 2015年1月7日）は、フランスの著名な経済学者、作家、ジャーナリストです。彼は、ペンネーム「オンクル・ベルナール（ベルナール小父さん）」として、風刺週刊誌『シャルリー・エブド』に辛辣な経済コラムを連載し、市場経済の盲点を鋭く批判しました。2015年1月7日、シャルリー・エブド襲撃事件でイスラム過激派によって命を奪われるという悲劇的な結末を迎えましたが、彼の遺した思想と作品は、今日でも多くの人々に影響を与え続けています。

生い立ちと学歴

マリスは、ナチス・ドイツの占領に抵抗したレジスタンス運動に参加していた父親の影響を強く受け、幼少期から社会に対する批判的な視点を培いました。彼はピエール・ド・フェルマー高校とトゥールーズ政治学院を卒業後、1975年にトゥールーズ第1大学で経済学の博士号を取得しました。博士論文では、「個人への利益配分：均衡のとれた経済成長を目指す理論的アプローチ」というテーマに取り組み、経済学における彼の独自の視点を示しました。

大学教員としての活動

1980年、マリスはアメリカのアイオワ大学ビジネスカレッジに招聘され、ミクロ経済学を教えました。その後、トゥールーズ第1大学で教鞭をとり、准教授へと昇進。1986年から1988年の間には、ペルー中央銀行でミクロ経済学の教員を務めるなど、国際的な舞台でも活躍しました。1994年にはトゥールーズ政治学院の教授、1998年にはパリ第8大学の欧州研究所の教授に就任し、教育者としてのキャリアを築きました。1995年には、経済誌『ヌーヴェル・エコノミスト』から「今年最高のエコノミスト」賞を授与されています。2011年には、フランス銀行理事会の会員に任命され、その経済専門家としての手腕を高く評価されました。

ジャーナリストとしての側面

マリスは、大学で教鞭を執る傍ら、経済ジャーナリストとしても活躍しました。『経済アンチマニュアル』や『エコノミスト・ウエルベック』といった著作を通じて、経済学を一般の人々にも理解しやすい形で解説しました。また、『マリアンヌ』、『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』、『フィガロ・マガジン』、『ル・モンド』、『レゼコー』、『シャルリー・エブド』など、多数の新聞・雑誌に記事を寄稿し、ラジオやテレビ番組にも出演するなど、多岐にわたるメディアで発言を続けました。

特に、『シャルリー・エブド』には1992年の活動再開時から参加し、株主にも名を連ねていました。この雑誌での辛辣な風刺コラムは、彼の代名詞ともなっています。

政治経済活動

マリスは、トービン税の実現を目指すATTAC（アタック）の創設に貢献し、同団体の学術協議会の副会長を務めました。彼はしばしばアルテルモンディアリスト（反グローバリズム運動家）と見なされ、2002年のフランス議会総選挙には緑の党の党員として立候補しました。また、フリーメイソンの会員であり、政治的なロッジ「ロジェ・ルレ」に所属していました。

2015年1月7日、シャルリー・エブド襲撃事件でイスラム過激派に殺害されました。1月15日にはモンジスカールで葬儀が執り行われ、彼の遺体は同地に埋葬されました。

ケインズ経済学への傾倒

マリスは、ケインズ経済学の熱心な支持者であり、著作『市井の経済学者ケインズ』などを通じて、その思想を広く伝えようとしました。彼は経済の現状を辛辣に批判し、市場経済の負の側面を指摘する一方で、無償化、贈与、ベーシックインカムなどの概念に光を当てました。『ポリティス』には「週32時間労働」を支持する記事を掲載するなど、常に既存の経済システムに疑問を呈する姿勢を貫きました。友人の作家ミシェル・ウエルベックは、マリスを「経済的自由主義の明晰な分析家」と評しました。

マリスは、2015年12月31日にレジオンドヌール勲章を贈られました。これは、彼の生涯にわたる活動と貢献を称えるものでした。

主要な著作

マリスは、経済学に関する多くの著作を残しました。

『経済政策の諸要素 ― 1945年から1984年までのフランスの経験』(1985)
『疑わしいところが全くない経済学者、または預言の大仮面舞踏会』(1990)
『大学人の七つの大罪』(1991)
『ジャック・ドロール、アーティストそして殉教者』(1993)
『おまえに金の話をしよう』(1994)
『ああ、神よ、経済戦争はあまりにも素敵だ！』(1998)
『市井の経済学者ケインズ』(1999)
『われわれがバカだと思う経済学の精神的指導者への公開状』(1999)
『証券取引所か、人生か ― 小株主の大がかりな操作』(2000)
『敗者に災いあれ ― ああ、金持ちがただの金持ちであったなら』(2002)
『経済アンチマニュアル』(2003, 2006)
『恐怖支配』(2007)
『経済のらりくらり答弁の小原則』(2008)
『資本主義と死の欲動』(2009)
『マルクス、ああ、マルクス、なぜわたしをお見捨てになったのですか』(2010)
『社会主義者のための（不可能な）口頭弁論』(2012)

また、経済学だけでなく、エッセイや小説も執筆しました。

『闘う男 ― エルンスト・ユンガーに立ち向かうモーリス・ジュヌヴォワ』(2013)
『エコノミスト・ウエルベック』(2014)
『フランスを好きになろうよ』(2015)
『笑顔を見せて、あなたはフランス人だよ！』(2016)
小説『ノースダコタ州の道徳的・性的に大事な問題』(1995)
小説『黙っていたかった子供』(2003)
* 小説『新聞』(2005)


ベルナール・マリスは、その多岐にわたる活動を通じて、経済学、ジャーナリズム、政治、文化の領域で多大な影響を与えた人物です。彼の遺した思想と作品は、今日の社会においても、深く考えさせられる多くの示唆に富んでいます。

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