ベルラド放射能安全研究所

ベルラド放射能安全研究所：チェルノブイリ事故後のベラルーシにおける放射線防護の取り組み

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後、ベラルーシは深刻な放射能汚染に見舞われました。この悲劇的な出来事を受け、ベラルーシ科学アカデミーの物理学者ワシリー・ネステレンコ博士は、汚染地域への対応に奔走しました。当初、国家主導の検査センターの設置や放射線防護教育に携わっていたネステレンコ博士でしたが、様々な圧力により、その活動は制限されていきます。

しかし、ネステレンコ博士は諦めませんでした。1990年、アンドレイ・サハロフ博士らの協力のもと、民間研究機関「ベルラド放射能安全研究所（BELRAD）」を設立します。BELRADは、欧州諸国のNGOからの支援を得て、ウクライナ製のホールボディカウンターを導入。汚染地域を巡回し、住民の放射能汚染状況の測定を始めました。1991年以降、35万件の食品と19万人の子どもの放射能測定を実施、そのデータに基づいた対策に尽力しました。

BELRADの研究は、低線量放射線の健康への影響という、当時あまり注目されていなかった問題にも焦点を当てました。ネステレンコ博士と国立ゴメリ医学研究所のバンダジェフスキー教授は、低レベルのセシウム137でも人体に損傷を与える可能性を指摘。リンゴ由来のペクチンを主成分とする放射能吸着剤「ビタペクト」を開発し、7万人以上の子どもたちに提供しました。この取り組みは、西側のNGOからの資金援助によって支えられました。

しかし、BELRADの活動は政府からの圧力にさらされました。ネステレンコ博士は、政府発表の汚染度が実際よりも低く見積もられていることを指摘し、その報告書を大統領に提出しました。この報告は、政府の対応の不備を告発するものでした。しかし、その結果、バンダジェフスキー教授は逮捕され、BELRADの体内放射能測定活動は禁止されてしまいました。ネステレンコ博士は、この禁止処分を不服として訴訟を起こし、測定は医療行為ではなく物理的行為であるという判決を得て、活動を継続しました。

BELRADは、欧米諸国のNGOと協力し、汚染地域の子どもたちの国外保養プログラムを実施。汚染環境から一時的に離れ、健康回復を図る取り組みにも力を注いでいます。

BELRADの副所長ウラジーミル・バベンコ博士は、『自分と子どもを放射能から守るには…親のための手引き』を執筆。この本は、汚染環境下で生活する人々への具体的な対策を指南するもので、日本語版も刊行されています。

BELRADの活動は、チェルノブイリ事故後のベラルーシにおける放射線防護の取り組みにおいて、重要な役割を果たしました。政治的圧力や困難にもかかわらず、地道な研究と国際協力を通じて、汚染地域の人々の健康を守ろうとするBELRADの努力は、今もなお続いています。その活動は、放射線防護の重要性と、科学的根拠に基づいた対策の必要性を世界に訴えかけるものです。

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