テネシー州ナッシュビル近郊にあるベル・ミード・
プランテーションは、アメリカ南部における
プランテーションの歴史と、
サラブレッド繁殖産業の隆盛と衰退を物語る重要な場所です。現在、博物館として一般公開されており、広大な敷地には19世紀当時の大邸宅や付属施設、そして
奴隷制度の痕跡が遺されています。
1807年、
バージニア州出身のジョン・ハーディングが
ナッシュビル郊外に土地を購入し、
プランテーションを設立しました。当初は
サラブレッドの繁殖を主に行い、近隣の名士
アンドリュー・ジャクソンらとも交流がありました。ジョンは連邦様式の邸宅を建設し、穀物貿易などでも成功を収めます。
息子のウィリアム・ガイルズ・ハーディングは、父の後を継ぎ、
サラブレッド繁殖に情熱を注ぎました。彼は競馬だけでなく、血統改良にも関心を持ち、質の高い
サラブレッドの生産に成功します。1853年には、現在のギリシャ復古様式の壮大な大邸宅を建設しました。
プランテーションは繁栄し、所有地は5,400エーカーに拡大しました。
しかし、この繁栄の裏には、多くの
アフリカ系アメリカ人奴隷の苦しい労働がありました。ハーディング家は
ナッシュビルでも有数の
奴隷所有者であり、
プランテーションでは様々な職種で
奴隷が働いていました。彼らは農業労働、家事、鍛冶など、様々な技能を駆使して
プランテーションを支えていました。
奴隷たちは、大邸宅近くの比較的快適な住居に住む者と、牧草地の粗末な小屋に住む者などに分かれています。
奴隷の墓地も発見されており、彼らの厳しい生活を物語っています。
ウィリアム・ガイルズは、
奴隷制度廃止後も解放
奴隷への教育には消極的な姿勢をとり、
アフリカ系アメリカ人への平等な権利を認めませんでした。
ベル・ミード・
プランテーションの成功には、
奴隷として働いていた
アフリカ系アメリカ人の
騎手や
厩務員の貢献が不可欠でした。彼らは馬の世話をし、優れた騎乗技術を駆使して競馬で勝利をもたらしました。
中でも、アイザック・マーフィーは、
ケンタッキーダービーで3勝を収めた伝説的な
騎手として知られています。しかし、彼の活躍は短命に終わり、若くして亡くなりました。一方、馬に乗るには体が大きくなりすぎた
騎手は、
調教師として活躍するようになりました。エド・ブラウンなどは、
ケンタッキーダービー優勝馬を育成したことで有名です。
ベル・ミードでは、ボブ・グリーンという名の
奴隷出身の
厩務員長が特に重要な役割を果たしました。彼は
サラブレッドの知識に長け、
プランテーションの成功に大きく貢献しました。
南北戦争後も働き続け、高い給与を得ていました。彼は大統領に紹介され、大統領に馬を見せる機会もありました。彼の墓は、ベル・ミード・
プランテーション内に存在しています。
南北戦争中は、ベル・ミード・
プランテーションも戦火に見舞われました。
ナッシュビルの戦いの際、
プランテーション前で南
北軍の小競り合いがあり、大邸宅の一部が損傷しました。戦争によって
プランテーションの経営は大きな打撃を受けました。
ハーディング家とジャクソン家によるプランテーションの維持と衰退 (1865年~1904年)
南北戦争後、ハーディング家は
サラブレッドの繁殖販売を再開し、再び繁栄を取り戻しました。毎年行われる1歳馬の販売会は、国内外から多くの買い付け人を呼び寄せました。ハーディング家の娘セリーンの夫であるウィリアム・ヒックス・ジャクソンは、熱心な
調教師として
プランテーションの経営に尽力しました。彼は、大邸宅を改築し、近代的な設備を導入しました。ベル・ミードは、グローバー・クリーブランド大統領など多くの著名人を招きました。
しかし、19世紀末から20世紀初頭にかけての世界恐慌や
テネシー州の競馬場閉鎖などの影響で、ベル・ミード・
プランテーションの経営は悪化し始めました。多額の負債を抱えたまま、ハーディング家とジャクソン家は相次いで亡くなり、
プランテーションは競売にかけられました。
現在
現在は、ベル・ミード・
プランテーションの30エーカーの敷地と大邸宅などが、
テネシー州歴史保存協会により管理運営され、歴史的建造物や
奴隷制度の暗い歴史を伝える博物館として公開されています。 敷地内には、ワイン醸造所、観光案内所、ハーディング家の小屋、酪農場、馬車庫、家畜小屋、霊廟、そして再建された
奴隷地区などが残っており、当時の様子を偲ばせる貴重な場所となっています。ベル・ミード・
プランテーションを訪れることで、アメリカ南部の歴史と、その繁栄と衰退、そして人々の苦悩を深く理解することができます。