ベンジルアルコール

ベンジルアルコール

ベンジルアルコール（benzyl alcohol）は、ベンゼン環を持つ芳香族アルコールに分類される有機化合物です。化学式はC₆H₅CH₂OHで、別名としてフェニルメタノール（phenylmethanol）とも呼ばれます。常温では無色透明の液体で、融点はマイナス15.2 ℃、沸点は205.3 ℃です。特徴として、わずかに甘く心地よい香り（芳香）と、口に含むと焼けるような、やや刺激的な味を持っています。

性質と反応

ベンジルアルコールは、多くの有機溶剤、例えばベンゼン、エタノール、クロロホルムなどとは容易に混ざり合いますが、水への溶解性は比較的低く、常温で水100グラムに対して約4グラム程度しか溶けません。

空気中に長時間放置しておくと、ゆっくりと酸化が進行します。この過程で、まずベンズアルデヒド、さらに酸化が進むと安息香酸という別の化合物へと変化していきます。

また、酢酸や安息香酸、セバシン酸といった様々な酸と反応することで、エステルと呼ばれる化合物群を生成します。この性質は、香料の合成において特に重要です。たとえば、ベンジルアルコールと酢酸が反応してできる酢酸ベンジルは、ジャスミンやイランイランといった花の香りの主要成分として非常に有名です。

用途

ベンジルアルコールの最大の用途の一つは溶剤としての利用です。インクや塗料、ラッカー、そして強度が高く接着性にも優れるエポキシ樹脂の塗膜など、様々な工業製品の製造過程で溶剤として広く用いられています。

また、前述の通り、石鹸や香水、その他の香料製品に用いられる多様なエステルの合成原料としても不可欠です。写真の現像処理にも利用されることがあります。

さらに、化粧品分野においても多岐にわたる役割を担っています。製品に香りを加えるための着香料や、香りがすぐに飛んでしまわないようにするための保留剤として機能します。加えて、微生物の増殖を抑える抗菌効果があることから、製品の品質を維持するための防腐剤としても利用されています。

危険性

日本の消防法においては、危険物第4類第三石油類に指定されており、貯蔵や取り扱いには法的な規制があります。

かつて、ベンジルアルコールは労働安全衛生法における特定の規制対象外でした。そのため、危険性が指摘されていた塗料剥離剤中の塩化メチレンの代替物質として多用される時期がありました。しかし、特に換気の不十分な環境下での使用により、中枢神経系や腎臓への有害性、あるいは麻酔作用による中毒といった労働災害が多発し、これが原因となって死亡事故が発生した事例も報告されました。こうした状況を受け、労働安全衛生に関する法令が見直されました。

その結果、2021年1月1日からは、ベンジルアルコールに対しても新たな規制が適用されています。具体的には、化学品の危険有害性情報を伝えるためのGHSラベル表示、安全データシート（SDS）の交付、そして事業場におけるリスクアセスメントの実施などが義務付けられるようになりました。

製法

ベンジルアルコールを得るための製法はいくつか知られています。

実験室的な規模では、ベンズアルデヒド（C6H5CHO）というアルデヒド類を原料として、適切な触媒の存在下で水素と反応させる水素化反応、あるいは他の還元剤を用いて還元することで合成できます。

工業的な規模での製造方法としては、炭酸ナトリウム（ソーダ灰）のような塩基性物質を存在させた状態で、塩化ベンジル（C6H5CH2Cl）を水と反応させる加水分解法が一般的です。この方法により、比較的効率よくベンジルアルコールを製造することができます。

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