安息香酸

安息香酸：性質、安全性、そして利用

安息香酸は、特有の芳香を持つ有機化合物であり、ベンゼン環にカルボキシル基が結合した構造を有する芳香族カルボン酸です。水に溶けると酸性を示し、その抗菌作用から、食品保存料として古くから利用されてきました。

安息香酸の性質と発見

安息香酸は、1832年にリービッヒとヴェーラーによって構造が決定されました。その名は、香料として用いられる樹脂の一種である安息香（ベンゾイン）に由来します。安息香には安息香酸のエステルが多く含まれており、そこから安息香酸が単離されました。安息香酸は、トルエンなどのアルキルベンゼン類を酸化することで工業的に合成されます。また、ベンズアルデヒドの酸化によっても得られます。

保存料としての利用と抗菌作用

安息香酸、特にその水溶性ナトリウム塩である安息香酸ナトリウムは、清涼飲料水などの保存料として広く用いられています。安息香酸は、細菌などの増殖を抑制する抗菌・静菌作用を持ちますが、既に増殖した菌に対しては効果がありません。そのため、食品の腐敗を防ぐ効果があり、食品の品質を保持する上で重要な役割を果たしています。

体内での代謝と安全性に関する議論

人が安息香酸を摂取すると、肝臓で代謝され、馬尿酸となって尿中に排泄されます。しかし、その安全性については、いくつかの議論があります。

2007年、英国食品基準庁による研究報告では、安息香酸ナトリウムと特定の合成着色料を同時に摂取した子供に、注意欠陥・多動性障害との関連性が示唆されました。一方、欧州食品安全当局（EFSA）は、この研究結果の臨床的意義や一貫性、データの信頼性などに疑問を呈し、ADI（一日摂取許容量）の変更は不要との結論を出しています。

また、安息香酸とアスコルビン酸が共存する清涼飲料水では、微量のベンゼンが生成する可能性が指摘されています。ベンゼンは発がん性物質として知られていますが、生成量は非常に少なく、ドイツ連邦リスク評価研究所（BfR）は、現時点での健康リスクは無視できるほど小さいとしています。

2021年の厚生労働省の評価では、安息香酸は食品中に天然に含まれており、長年食品添加物として使用されてきた実績から十分な食経験があり、飼料添加物としての使用においても健康への悪影響は限定的であると結論づけられています。

使用基準と規制

日本では、かつて厚生省（現・厚生労働省）が安息香酸および安息香酸ナトリウムの使用を、清涼飲料水、マーガリン、醤油、キャビアなど特定の食品に限定し、使用量を規制していました。現在も、食品衛生法に基づき、使用範囲と使用量が定められています。

まとめ

安息香酸は、その抗菌作用から食品保存料として広く利用されてきた物質です。安全性については様々な議論がありますが、現時点では、適切な使用量を守れば健康へのリスクは低いと考えられています。しかし、今後の研究によって新たな知見が得られる可能性もあるため、引き続き安全性に関する情報に注意を払うことが重要です。

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